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4限目のチャイムが鳴る。
マキが思いっきり解放感に浸っていると、おもむろに芦屋がやってきた。

普段ならエンドレスで誰かとくっちゃべっている芦屋にしては珍しい。
どういう風の吹きまわしだろう。

「どしたの?」
「今日な、昼休みぶっ通しで学実の最終ミーティングがあるんよ。だからホンマに悪いんやけど、お昼一緒に食べれへんの」

ごめん、と手を合わせる芦屋。
ぶっ通しということは昼食抜きなんだろう。気の毒なことだ。

「そっか、本番明日だもんね。いってらっしゃい」
「本番って何なん、本番って。アンタも参加するんやで。全く、他人事やなぁ……」



ブツブツ言いながら去っていく芦屋を見ながら隣人にも同伴の誘いをかけてみる。
部活の用事が無いときは1人で昼食をとることの多い赤司のことだ、今日も大丈夫かと思いきや、いつまでたっても返答はない。

振り向けば、マキの隣に赤司の姿は無かった。

「赤司君ならさっき椎木先輩が呼びに来たからおらへんで」
「あ、そっか。何考えてたんだあたし……」
彼女がいる。
考えてみればその時点で前みたいに2人で学食に行くのは無理だった。


……ん?

「うわっ、瑞樹ちゃん!」
代わりにマキの前に現れたのは、菅田瑞樹たち3人だった。

『トモダチ無くしとうないなら赤司君に近づかんといて』
1週間前に菅田が言ったその言葉はまだ記憶に新しかった。

もし、あの直後に赤司の告白騒ぎがなければ、と想像するだに恐ろしい。
あれでうやむやにならなければ、きっと少女漫画の主人公デビューも夢じゃなかっただろう。


だが、現在目の前に立つ3人は決まり悪そうにしているだけで、1週間前の息の詰まるような敵意はなりを潜めていた。

「マキちゃんって、えりかがおらん時はしょっちゅう赤司君と食べとったよな」
「ウチらとおる時とか、委員会の時とか」
「う、うん」


マキが恐る恐る頷くと、菅田がおずおずと口を開いた。

「1人でいるのもなんやし、ウチらと一緒にご飯食べる?」

それこそどういう風の吹きまわしだろう。
到底信じられない言葉に、マキは思わず聞き返してしまった。


「マキちゃんには悪かったと思ってるんや。……ウチの勘違いやったのに、この前、言いすぎてしもうて」
「本当はもっと早く謝りたかったんけど」ともう1人も言った。

なんでも、マキがあまりにも傷付いた顔をしてたから、らしい。

「赤司君と仲良くしてる時は正直ムカついたけど、ここ最近のアンタらの感じ、違和感しか感じへんのよ。不思議なことにな」
「あ、ありがとう……?」

唐突に、いつか赤司に言われたことを思い出す。
将棋的な人間関係の作り方、と赤司はマキを分析していた。

その時は意味を理解出来なかったが、今なら何と無く分かる気がする。
改めて、赤司の凄さを実感する。


それと同時に思うのだーー

もしかしたら赤司は、椎木の告白を受け入れることで発生する全てを分析していたんじゃないかって。



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