33

夜が明けて、ラジオを聴いていたら朝が来て。そのおかげで少し早く学校に来たら、

あれ?


いつも通り教室に入ったはずなのに、妙な違和感がマキをさいなんだ。

でも、いつかのように席順が違う訳でもなくまた皆のっぺらぼうになっている訳でもなく、全くいつも通り。
一体何が違うのか。

「和泉、せっかくチャイム鳴る前に着いたんやから、さっさと座ったらどうなん。邪魔や、そこ」
「す、すみません」
梅田に言われ、教壇の前からそそくさと自席に向かう。

「今度はどうした。いいかげん精神病棟行きを勧めるぞ」

周りの目なんてそっちのけで脳みそをフル回転中のマキに、赤司は小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


あ。

「……赤司くんのっ、馬鹿……っ! デリカシーって言葉、知らないわけっ!?」

「そんな三文芝居をしてる余裕があれば平気だな。元気そうで何よりだ」


これは、参った。

ーー猫まただけ見えない、なんて。



例のニュースが学校中を駆け巡った昼休み。
真向かいに座る芦屋の後ろには、いつも通りペンギンが浮かんでいる。

やっぱり、赤司だけか…


「いやぁ、ええなぁ。恋する乙女の悩ましげなた・め・い・き」
「……」

マキが別の意味をこめて大きくため息をつくと、「ノリ悪いで」と瞬時に蹴りが入る。
おかげで口いっぱいに入っていたきつねうどんを吹き出しそうになった。全く、暴力的なんだから。

「……恋、かぁ」

「あらやだアンタが言うと予想外にキモい」
芦屋は、「絵になりすぎて」と吐き捨てると、箸の先で周りの景色にいくつか点を打った。

ん?と首を傾げる。

そのどの方向を見ても昼食をとっている男子生徒がいるだけで、特に共通点もなければおかしいところもない。学年もばらばらだ。

「今の話に何か関係あるの、それ?」
「……はいはい、そーやったそーやった。ほな、恋愛音痴のマキちゃんに分かりやすう教えてやるとなぁ、」

「皆、お前のことを見てたんだよ」


「そう、その通り……ってうわぁぁぁっ!?」
驚きのあまり芦屋は絶叫し、マキは絶句した。
「あ、赤司……」

どうしてここにと問えば、赤司はかなり不服そうな顔をした。

「何だい、2人揃って。部活の調整をしていただけだよ。そしたらたまたま面白そうな話をしていたから」

芦屋がすかさず辺りを見回す。
少し先のテーブルで談笑する実渕を見つけると、「マネージャーだから」と一目散に飛んで行った。驚くべき行動力である。

さらに驚かされたことには、マキが赤司と2人きりというシチュエーションに少なからず緊張している、という事実だった。


「それにしても不思議なものだな。恋愛なんて直感的なものだから、あの和泉が疎いとは思わなかった」


「じゃあなに、そう言う赤司は恋したことあるわけ?」
そう言うと、なぜだか赤司は虚を突かれたように黙り込んでしまった。

条件反射で猫またを見ようとしたものの、案の定、中空に視線をさまよわせただけで終わる。


「……さあ、どうだろうな」


恋。
それは、実に不便なものなのかもしれない。



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