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この世に、結論の見えている話ほどつまらないものはないと思う。
ことに、その論旨自体が馬鹿げていて、わざわざ婉曲的に言ってくる場合などは。


「マキちゃん、昨日、駅のマジバにおったやろ」
マキが模造紙の上で作業していた手を止めれば、キツい視線とかち合った。
その手には綺麗に磨き上げられた爪が光るだけで、何かを作業した痕跡はない。

せっかくホームルームを学園祭準備にあててもらっているっていうのに、いいご身分なことだ。


また俯いて書きかけのゴシック体に油性ペンをこすりつければ、シンナーのにおいが強く香った。

「あ、うん、瑞樹ちゃんもいたんだ。ごめん、気付かなくて」
「ええよええよ。ウチらけっこう離れたとこに座っとったし、無理あらへん。ほんまは声かけよ思うてたんやけど……」
「先輩もおったし、そんな雰囲気じゃなかったもんな」

教室から廊下に出て来た2つの気配は、マキの目の前の女子の脇に従者のように立った。どこかバランスが悪いと思えば、同じグループのはずの芦屋の姿が無い、

まあ、当然か。学実のクラス長なら、仲裁なんぞに割いてる暇はないだろう。


「なあ。アンタ、一体何なん?」
「何って……」
廊下を占領している真っ白な模造紙を横目で見ていたら、眼の奥の筋肉が変な風に弛緩してきた。
まずい兆候だ。

「決まっとるやろ。えりかみたいにマネージャーでもないくせに、へらへらすり寄ってってさぁ。マジ調子乗ってるとしか思われへんわ」
「ちょっと顔がかわいいからってなぁ」

「……調子になんか乗ってないよ。あの人たちに会ったのはたまたまで、」
瑞樹ちゃんの想像しているようなこととは違う。

そう続けるはずだった言葉をマキは発することが出来なかった。

「なんや、言い返せないん?」

派手な少女たちの後ろに見えていた、地味な小動物の画がどんどん薄くなっていく。
知らぬ存ぜぬを貫いて、模造紙製作にいそしんでいた数人のクラスメイトも同じだ。

やばい、やばい、とマキの脳内に警鐘が鳴り響く。
だが相手はそんなマキの様子に勢いづいてか、容赦無く言葉を浴びせかけた。


「昨日はえりかもええ顔しとらんかったで。なあ?」
「せやな。いつもはアンタのフォローしとるけど、あれはさすがにな」

あの、芦屋までも。

目の前が文字通り真っ白になった。
誇張だと信じたいけれど、芦屋がマキの陰口に参加していたのは、多分、事実だ。


「マキちゃん、忠告しといたるわ。トモダチなくしとうないなら、これ以上赤司君たちに近付かんといて」


後ろの「画」が完全に見えなくなった視界では、個人の顔すら識別できなくて。


全員のっぺらぼうになってしまった。


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