27
むう、としながら残りのハンバーガーを頬張ると、実渕が微かに笑った。
「ダメよ、征ちゃん。マキちゃん怒っちゃったじゃない」
「ああ、そうみたいだね」
猫またが指差しでマキをわらう。
「だってあたし、結構必死だったのに……赤司は最初からやる気満々だったんじゃん」
「そんなことはないさ。和泉の懸命なご説得に心動かされてね。まさかお前が友達のためにあそこまで積極的になるとは思ってなかった」
赤司だけかと思いきや、ぷっ、と全員が吹き出している。
何かよくあるなぁ、この状況。
「マキちゃん、口にケチャップついてる」
「え、うわわっ!」
慌ててナプキンを口元に当てると、本当にケチャップがにじんだ。
「……赤司、知ってて黙ってたでしょ」
「何のことだい」
……いっそだんまりを決め込もうか。
「あり?和泉、だっけ。赤司のこと呼び捨ててんの?」
唐突な葉山の質問にマキがちょっと言いよどんでいると、赤司が口を開いた。
「お前たちだってそうじゃないか」
「あ、まあそれはそうなんだけどさ。タメでも赤司を呼び捨ててる奴、ほとんど見たことねーし」
「そうか?」
全員一致で頷いた。
マキのクラスでも、女子は勿論、男子もほとんどが赤司に対しては君(さん)付けだ。
と、思い出してみて、やっと葉山の疑問の理由に思い当たる。
「今まで何の気なしに呼んでたけど……もしかして、あたしもクンとか付けた方がいい?」
マキの言葉に、猫またが目を見開く。なんだか、
「よしてくれ。気味が悪い」
「……は? ふざけてんの?」
マキの中で浮かびかけていた言葉は、積もり積もった怒りで吹き飛んだ。
「別にふざけてなどないさ」
「ちょ、ちょっと征ちゃん! さすがに言い方ってものがあるでしょ」
「なぜ?」
「……やべぇ。マジで首傾げてやがる」
一体赤司はひとのことを何だと思っているのだろうか。
マキだって一応気を使ったつもりだったのに、ああ、イライラする。
「和泉」
「……今度はなに」
「ワーゲンダッツかミセドのドーナツ2個、これでいいか?」
帰り道、どっちか奢ってやる。
そんな言葉が赤司から発せられたなんて、ちょっと信じられなかった。しかも、あの赤司がぎこちなく、だ。
「……5秒以内にどっちか決めろ。ごー、よん、さん」
「わわ、ワーゲンダッツで!」
「分かった。それでいいな」
それ、というのが、赤司なりのマキへのご機嫌取りなのだと気付いて、更に驚く。
実渕が「素直に謝ればいいのに」と誰ともなしに呟いて、マキの波乱の日曜日はおおむね終了した。
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