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「なぁ、和泉さんって、赤司君と付き合っとるん?」
椎木はゴールドに鞍を付け終わると、真剣な面持ちでマキにそう言った。
「え? えっと、違いますけど……どうしてですか?」
首を傾げるマキに、椎木は「何でもあらへんよ。ちょっと聞いてみたくて」と短く言って、また何事も無かったように乗馬の説明を始めた。
赤司と付き合っているように見える、のかぁ。
ぱからっ、ぱからっ、と規則的な上下運動に身を任せながら、マキはさっきの椎木と、手綱を引いてくれている椎木とをそっと見比べる。
かなりの人数がその誤解をしているのは知っていたけれど、面と向かって言われるのは初めてだった。
しかも、あんなに差し迫った顔で。
「和泉、ぼうっとしてると落ちるぞ」
「わぁっ、赤司!?」
マキのオーバーリアクションが気に入らなかったのか、話題の人は少し眉をひそめた。
「何だ。僕は化け物かなにかか」
「……いえいえ、どこからどう見ても猫またですとも」
「は?」
また違う方向に口を滑らせてしまったことに気付いた。
「結構スジええで、和泉さん。運動神経もいいし、何より馬を怖がらへんのよ」
赤司の注意が椎木に逸れたことに、ほっとため息。
「彼女、つかみはいいからね。そうだろうと思った」
「つかみ『は』って何!? わざわざ強調しなくてもいいじゃん」
「何を言っている。お前に持久力と根気が著しく欠けていることは周知の事実だろう。勉強然り趣味然り」
「……そんなはっきり言わなくても」
その時、人の感情に疎い赤司は、きっと椎木の薄暗い表情は見えていなかったのだろう。
そんなこんなで練習が終わり、マキが着替えを済ましたときには、もうお昼時だった。
さっきからずっと鳴っていたお腹は、赤司を前にすればおさまる訳もなく。
「いい音してるね」
嗚呼お腹すいた。
「じゃあ、ご飯どこで食べる?」
「え?」
珍しく虚をつかれたような赤司の返事に、はっとする。
マキはこのまま一緒に食べるものとばかり思っていたけれど、よく考えれば赤司にとってその必要はない。
それこそ、付き合っている訳でもないのだから。
「あ……ごめん。なんかノリで」
「いや、僕は構わないよ。少し驚いただけだから、気にしないでくれ」
赤司にフォローされるなんて珍しいけれど……なぜだかこっぱずかしい。
一連の流れでひらいてしまった距離を縮めようと歩調を速めていると、赤司がふとマキの顔を見た。
「……お前には、本当に驚かされることが多いな」
「へ、どういう意味?」
「何て言うんだろうな、和泉って分かりやすいようで」
「全然褒めてないよね赤司」
「規則性が全くないから、予測できない」
僕の最大級の賛辞だよ、と言った赤司の微笑がどうにも目に焼き付いて、離れなかった。
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