22

だんっ、だんっ。

ディフェンスの後ろをぬって、ゴール下に躍り出る。
相手チームに囲まれ、右往左往していたボールの持ち主は、マキに気付くと即座にパスを回した。

上出来。

綺麗な放物線を描いたそれは、まっすぐネットの真ん中を落ちていく。
体育教師がマキのチームの勝ちを告げれば、休憩中の他チームから拍手が巻き起こった。


「あ、えりか。お疲れ」
「全くやで。1限からこんなに疲れとったら、今日1日、体力持つ気せぇへん」
シューズから上履きに履き替えているマキの隣に芦屋がやってきた。

「あーあ、マキってどんだけ運動神経ええんよ。ウチ、毎日本物見てるはずなんやけどなぁ……」
「そっか、マネージャーになれたんだよね。念願の」
「そうなんよ! めっちゃ楽しいで。大変やし、赤司君も厳しいけど」


赤司が厳しい。心の中で繰り返しても、その言葉の意味というか、実感がいまいちしっくりこない。
どうやら他の人の言う赤司と、マキの知っている赤司とではズレがあるらしかった。


「そうそう、赤司君と言えば、やっと仲直りできたみたいやな。昨日もずっと話しとったし……あんた一体どんな手使ったん?」
いきなり低くなった声にびくっとする。

「え、ふつうに謝っただけだけだよ」
「ほんま?」
「……うん」
芦屋はマキに詰め寄ると、「目ぇ泳いでんで」と一言いって、再びすたすたと歩き出した。

謝るきっかけを作ってくれたのに、申し訳ない、とは思う。
ただ、いかんせん一部始終を説明するには時間とマキの国語力が足りなさすぎた。


「まぁそれは後々じっくり言ってもらうとしても、本題は……赤司君をどうやったら説得できるか、マキなら分かるんちゃうかなぁと思って」
「何を?」
「学園祭の出し物。昨日決めたやろ?」

お医者さんごっこ。
ネーミングはいかがわしいけれど、よく思い出してみると、必要な衣装は白衣だけで、食品衛生面でもクリアした秀逸な企画だった。


「あんたらもそうやけど、一部の人以外、まぁったく無関心なんよ。でも、なんとか赤司君に協力してもらえば、みんなやる気になってくれるんちゃうかなーって」
「……えりかって意外とよく考えてるよね」
「ありがとう、その枕詞は要らへんわ。で、何か良い案無いん?」


なけなしの脳みそを振り絞っていると、ちょうどマキの視界に赤色が映り込んだ。授業は男子の方が早く終わったらしく、もう全員制服姿だ。
ぶんぶんと手を振ると、急げ、と口パクが返ってきた。


「学園祭でさ、出し物全体で人気投票みたいなのってやる?」
「やるとは思うけど、賞品とかはあらへんで」
「なら、『どうせやるなら1番目指さない? 』みたいにストレートに言えば? 多分、赤司は見返りどうこうより、1番って方が重要だろうから」


「ふぅん、確かに、変な小細工してもすぐバレちゃうだろうし、それが一番かもしれへんな」

瞬間、2限のチャイムが鳴った。
振り向けば、誰もいない。


マキと芦屋は、無言で全力疾走を始めた。


prev/next

back



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -