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洛山高校は、毎年6月初旬に学園祭があるらしい。

マキがそのことを知ったのは、水曜日の6限、ホームルームの時間に学実委員なる肩書きで芦屋が教壇に立ったときだった。

「はいはーい、皆さんにお知らせがありまーす。ウチのクラスは希望通り、食販部門を勝ち取ってきましたー!」
パチパチパチ、と拍手。
「やりたいことがあったらじゃんじゃん候補挙げてってください」


「あれ、えりか?」
マキが思わずシャーペンを止めると、芦屋が黒板にチョークを滑らせていた。

「何を今更。先週だって、出し物の希望をとっていたじゃないか」
「……記憶にない」
「お前のことだから寝ていたんだろう。そんなことより、さっさとノートを写してしまってくれ」
「はーい」

赤司が隣だと、本当に助かる。
古典、現代文、歴史などの授業は7割方を寝て過ごしてしまうから、特に。

「全く……こんなことが続くようだったら、僕もノートを見せるのはやめにしようかな」
「そんなぁ。期末で赤点取っちゃうよ、あたし」

洛山は中間が無い代わりに、年3回の期末の範囲が半端なく広い。その量と言ったら、期末2週間前には全部活が活動停止になるぐらいだ。
つまり、直前にまとめて勉強するのは不可能に近い。


「じゃあどの授業でも居眠りするのをよせばいい」
「数学と物理と体育と音楽は起きてるもん」
「見事なまでに感覚器官がものを言う教科群だな」

大体、何でいつもそう寝不足なんだ、と至極もっともな質問。
マキは笑ってごまかそうとしたが、赤司相手では抵抗するだけ無駄だった。

「店の手伝いをして、晩ご飯のあとは……趣味?」
「へぇ? 趣味って?」
「“今週"はオールでスタァウォーズ見てた」
さすがの赤司も予想外だったらしく、言葉を詰まらせる。

「まさか和泉が映画好きとはな。というか、馬鹿だとしか思えない」
「うーん……そういうわけでもないんだけど」
「趣味? それとも頭のつくりのこと? だったら大間違いだよ」
「趣味の方に決まってるでしょ。何さらっと心えぐろうとしてんの」

「で、映画鑑賞が趣味という訳でもない、ってどういう意味だい?」
スルーの方が心にくることを、マキは初めて知った。

ふと前を見れば、議事進行は上手く行っているらしく、黒板には結構な量の候補が書き連ねてある。
お医者さんごっこという文字に花丸がついているのは気のせいだと思うことにした。


「なんて言うんだろ、趣味って長く続けるものなんでしょ? あたしの場合、1か月くらいのスパンでそれが変わっちゃうから」
「つまりは恐ろしく飽きっぽいんだな」

「……まあ、言ってみればそう。だから、赤司みたいに毎日毎日バスケやり続けられるのって凄いと思う」

赤司はなるほど、と腕を組み直して、黒板に目をやった。
どうやら褒め言葉すらスルーされたようだ。


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