20

翌朝、マキはいつもより早く学校に向かった。
登校したのは8時ジャスト。「あの和泉が!?」という梅田とクラスメイトの感激の声。「やればできるじゃないか」と赤司にも褒めてもらいながら、着席する。


ーーというのはやっぱり夢の中の出来事で、時計はマキの手の中で8時を指していた。


また遅刻だ。

走る気にもなれずとぼとぼと階段を上っていたら、いよいよ朝礼開始のチャイムも鳴り終わってしまった。

息を深く吐き出し、ガラリと教室の扉に手をかける。

「まーた遅刻やで〜。全く、恒例行事とちゃうっちゅうの」
間髪おかずツッコミが入る。これだから大阪人は。

すみませんと軽く頭を下げて、着席しようとした途端、マキはおかしなことに気付いた。気付いたどころじゃなく、明らかに変だ。

何でマキの席に、違う人が座っているのだろう。

「え、えっと……」
大真面目に言葉を探しているマキに、そのクラスメイトは耐えきれず吹き出した。
それを皮切りに教室中が爆笑の渦に包まれる。

梅田も例にもれず笑いながら、困惑するマキに一言こう告げた。

「席替えしたんや、今朝」


今日から部活、大変やろうけど気張りや。連絡事項を終え、そう締めくくった梅田が教室から出て行くと、マキはばたんと机に突っ伏した。


「……ああぁ、恥ずかしー」
まだ頬が熱を持っている。
時間よ戻れなんて思っていると、隣からため息が聞こえてきた。

「とりあえずそのお気楽な脳みそから何とかした方がいいな。お前の場合」

梅田に示されたのは、窓ぎわの列の一番前の、教壇からは死角という良席。
そして、偶然にも隣は赤司だった。

「ふんだ。そんなことないもん」
「どうせ、時間を巻き戻したいとか考えてたんだろ?」
「……」
ほら図星だ、と赤司に一蹴された。


ふと耳を澄ませば、戻った、良かったね、なんて言葉が聞き取れた。マキたちの一連の流れを見ていたクラスメイトがざわめいているらしい。
どうやら赤司との喧嘩は、芦屋だけが懸念していたことでは無かったようだ。

みんなが気にかけてくれている、そのことがどうしようもなく嬉しかった。


「ほら、僕の言う通りだっただろ? 和泉が鈍いだけで、全く浮いてたわけじゃない」
「……あたし、まだ何も言ってない」
「それくらい僕じゃなくても分かるさ。表情筋、緩みきってる」
慌てて口元に手を当てると、赤司はふっと微かに笑った。

男の子なのに、綺麗に笑うなあ。

釘付けになっているマキを知ってか知らずか、赤司はそういえば、と続ける。


「今日から1か月はこの席らしいね。6月まで、よろしく頼む」

「こちらこそよろしく、赤司」




first round 完

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