19

「やっと本音、言ってくれたね」

ぱちり、ゆらり。ぱちり、ゆらり。
言葉を零すたび猫または揺らいでいるというのに、赤司本体は微動だにしない。

内面の感情を、ここまで顔に出せないひとがいるなんて。

「……もう、いいだろう。詰みだ」

将棋についてなのか、それとも違うことついてなのかは分からないが、赤司の眼はやめてくれと懇願するようだ。

「そうだね。赤司の勝ち」
何も言わない赤司に、マキがにこりと笑いかければ、赤司は急に立ち上がった。


椅子がひっくり返った音が、誰もいない教室に反響する。
少しだけ傾いた日差しが将棋盤に反射して、顔を上げると、ちょうど視界の端がハレーションを起こした。


「どうしてお前は……いくら負けてもそんな目で僕を見れるんだ」

皮肉なことに、赤司がマキを化け物でも見たかのような目を向ける。

「だって、ゲームってあくまで楽しむためにあるものじゃん」
「どういう意味だ」
「勝つか負けるかだけが、楽しさに直結するものじゃないと思う」

赤司は瞳孔も開かんばかりに目を見開いた。
「負けても、つまらなくは無いのか?」
「全然。赤司の戦法って変わってて面白いもん。……それに、勝つことだけに意味があるって思い込むのは勿体ないよ?」

本心からの言葉は、伝わっただろうか。
赤司はぷつんと黙り込むと、顎に手を当て、そして下を向いた。

マキはどきりとしながら顔を覗き込もうとして、その肩が小刻みに震えていることに気付いた。


笑っている。

心底おかしそうに笑うその姿は、この前の火のついたような笑った猫またとは全く違う。


「……赤司?」
「ふふっ、勝つことに意味はない、か……なるほどな……」

マキの声に呼応するように、赤司は天井を仰ぐ。
すこん、と抜けるように開けっぴろげな笑顏に目が離せない。



「僕がそこまで悟るには時間がかかりそうだ。

ーー負けたよ、お前には。僕の、完敗だ」


それは、赤司がマキを認めた瞬間だった。


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