16

「礼ッ」
赤司の鋭い声。それを追うように分厚い音の波が続く。
「ありがとうございました!」


祭りのあとの静けさに似た空気に包まれた2階で、マキもまたぼんやりとコートを見つめていた。

芦屋がねちねちと怒っていた理由が今なら分かる。
何倍もの大きさに膨れ上がった猫また。それに付随するあり得ないプレイ。
あの日、マキが新幹線で隣り合った男の子は、あんなにも凄かった。

初めて、赤司にもっと近付きたいと思った。


興奮冷めやらぬまま階下へと足を向ける。実渕は体育館を施錠するときに赤司が1人になると言っていた。
それまで待って、さっさと謝ろう。
マキの中に巣食っていた渋ったい感情はとっくに消え去っていた。


「ん? アレって……」
「だよな。例の新入生じゃね」
標準語?
部室から出てきたバスケ部員からだ。思わず視線を向けると、ヒューッと冷やかしの声が上がった。

「やべー、こっち向いた。噂どおりだわ」

あ。赤司に転ばされた人。

「俺、先帰るかんな。カノジョ待たせてるし」
「おうよ。さっさと帰れリア充が」
その男子部員はけらけらと軽口を叩きながら、マキに歩み寄ってきた。


「ねぇ、和泉マキちゃんでしょ?」
「そうですけど……?」
「ははっ。やっぱ近くで見てもかわいーね。今日はウチの部に、」
「あの、やっぱり、標準語ですよね?」

マキによってペースを崩される形となり、男は少し驚いたようだった。

「そうそう、俺も同じ東京出身。このガッコにはバスケ推薦で来たんだよ」
「……バスケで、スポーツ推薦?」
「あ、知らねーの? 洛山って昔から高校バスケじゃ最強なんだぜ。だから学校側もスカウトに力を入れてるし、バスケをやってる側としても、このガッコから声が掛かるのは凄いことなんだよ」
「へぇ……」
「にしても、今年のは格が違うけどな」

「赤司、ですか」

チャラい外見のその男でさえ、一瞬だけ、痛みをこらえたような顔をした。
だが、へらりとした表情に戻ると同時に、段々とマキに近寄ってきた。


「そーだよ。赤司征十郎。あいつと同じクラスなんだっけ? 今日もどーせ赤司目当てで来てんだろ、マキちゃんだって」
「まあ……赤司に用があって」
もう男との距離は1歩弱ぐらいしかない。

「マキちゃんさー、俺たち3年の中でもけっこう人気なんだよ。せっかく可愛いんだから、あんなバスケしか考えてないような奴なんてやめとけって。もったいねぇよ」

慣れないセリフに、条件反射で顔に血が上る。男はそんなマキに「マジでかわいーな」と口角を上げた。
そして、マキに手を伸ばそうとしたそのとき、


「何をしている」

鍵束を片手に、猫またがやってきた。

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