15
放課後、マキがのろのろと体育館に向かったときには、バスケ部の練習はとっくに始まっていた。
当然、仮入部受付も終わっている訳で。
手前の方で新入生と思しき後ろ姿が先輩に説明を受けている。
仕方ない、練習が終わるまでどこかで時間を潰そう。
マキが踵を返しかけた途端、どこからかワァッと歓声が上がった。
2階だ。ギャラリー席へ続く階段の途中に、座り込む生徒の姿がいくつか見えた。
きっとすごい人口密度なんだろうなぁ。
げんなりしながら階段を上り終えると、やっぱりギャラリー席は人の熱気がむんむんしていた。
きゃあ、とまた黄色い声が上がる。
観客の割合は男子2割、女子7割といったところだろうか。女子はともかく、男子の目的はわからない。
何とか人の間をぬってコートが見える位置まで行くと、赤司の所在はすぐに見つけられた。アバンギャルドな髪は素晴らしいまでに存在感を発揮している。
すると、
「ウチらラッキーやな! 赤司クン出てきたで」
隣の女子生徒がハイテンションに叫んだ。
「へ? なんでなん?」
「いつもは部員の指示に徹してることが多いんやて。友達が言うてたわ」
「ほな目に焼きつけとかんと」
へぇ。
マキはこっそり相槌を打ちながら、何となく納得する。隣だけじゃない、ギャラリーに漂うこの異様な雰囲気は、赤司の登場で引き起こされたイレギュラーなものらしい。
けたたましいブザーが試合開始を告げると、ギャラリーの興奮ぶりは更なるものとなった。
やけに見覚えがあると思えば、相手チームにはあの3人組の姿があった。マキが昼に会ったばかりの実渕もいる。
元レギュラーチーム、と誰かが囁いた。
が、赤司の方のチームが現レギュラーという訳でもないらしい。
首を傾げながら赤司を目で追っていると、ボールを持っていた根武谷の前で動きを止めた。なんという体格差。
無謀だろうと思っている間にも、根武谷は後ろに控える葉山にパスを回そうとする。
「……えっ」
だが赤司はボールにすっと手を伸ばし、数秒後にはネットが揺れていた。
開始早々、再びブザーが鳴り響く。
またもボールを手にした赤司に、今度は知らない2年が立ちはだかった。けれど、その男は赤司からボールを奪うどころか、すれ違いざまバランスを崩してひざをついた。
周りから驚きと戸惑いを含んだ声が次々に聞こえてくる。
今のは何だったのだろう。
猫またが膨張したあの一瞬。そのいずれからも不可解な現象が起こっている。
純粋に、凄い。
こんな人間は初めてだ。
マキは一心不乱に試合を見続け、気付いたときには、赤司のチームが無失点という結果で試合は幕を閉じていた。
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