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「赤司のためにもなる……ってどういうことですか」
実渕はにこりと微笑んだ。
化け狐や女狐というよりはいつか読んだ絵本に出てきた母狐に似ている。男なのに変な話だ、マキも我ながら思う。

「これといった確証もないんだけど、一つ言えるのは、私が征ちゃんを受け入れようと思ったのはあなたのおかげなのよ」
「はあ。あたし、そんな大層なことしでかしましたっけ」

赤司君をマジギレさせたでしょ、とまた芦屋からマキに蹴りが入る。いい加減足が痛い。

「そう、そのときまで、彼のことを人間じゃないって思ってた節があったのよ。実を言うと」
「そうですね、なんてたって猫またですもん」

「……え?」
2人から怪訝そうな目を向けられ、はっとする。慌てて「何でもないです」とごまかした。
危ない危ない。マキ以外の人間に猫またなんて見えるはずがないのだから。


「それは良いとしても、彼でもコンプレックスはあるんだなって、少し見直したの。学年主席の上にバスケだって無敵で全く隙がないのに、身長ごときで我を忘れて怒るなんて。驚いたわ」

芦屋もうんうんと頷いたが、その感想は共有出来なかった。
どうやらマキは猫またしか見えていなかったらしく、赤司自身の様子はよく覚えていない。猫またがポーカーで負けたときと同じ状態だったような気がするけれど、それだけだ。



「ま、思ってもフツー口には出さんけど。男の子って背ぇ気にする子多いやろ」
「……きっちり反省してます」
「でも凄いと思うわ、あなたのこと。征ちゃんと同じ高さで話ができる人間なんて限られるもの」
今度は蹴りに加え、睨みオプション。本格的に友達だと言い切れなくなってきた。

「そんな、みんなが言うほど大したことしてないのに。それこそフツーのクラスメイトですよ?」

「案外そう思ってるのはあなただけだったりしてね」

実渕は首をひねるマキに意味深な笑みを向けながら、すっと席を立った。
いつの間にやらお盆の中身は綺麗さっぱり無くなっている。

「もし良ければ仮入部にいらっしゃいよ。そうね、もう今日にでも」
「あ、でも、」
「体育館の戸締り、主将の役目なの。謝る気があるなら、その時間に待っていることをおすすめするわね」

またねと言い残すと、実渕はさっさと食堂を出て行ってしまった。


「実渕さん、食べるの早いねー。あたし達より遅く来たのに」
マキが恐る恐る正面に目を戻すと、やっぱり芦屋はじっとりした視線を向けてきた。

「で? マキ、どうすんの」
「どうすんのって?」

数秒の膠着状態。


「……放課後、バスケ部に行って参ります」

結局折れたのはマキだった。

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