13
「あ〜〜、もったいないもったいない。ほんまにもったいないお化け出るで、マキ」
この数日、何十回ともったいないと繰り返す友人に、マキはこっそりため息をついた。
お昼ごはんくらい、ゆっくり食べさせてほしいなぁ。購買で買ったうどんをずるりと口に運ぶ。
「だって向こうが徹底的に避けてくるんだもん。謝ろうったって、あんなに拒絶されたらどうしようもないよ」
マキが赤司と全く口をきかなくなってから、はや3週間が経とうとしていた。
そのことを芦屋えりかはもったいないと主張する。唯一あの赤司君と話せるポジションにいたのに、何でさっさと仲直りしないのだと。
「大体、皆が思ってるより、あたし達仲良い訳じゃないんだよ?」
「ダウト。あんたん家に赤司君が来たことあるんやろ? そこらのクラスメイトじゃできへんわ」
「……あれは成り行きっていうか」
「成り行きだろうがよそ行きだろうが、事実は変わらんのっ」
赤司ファンクラブ会長を自称する芦屋は思い出したように金切り声を上げた。
マキに声を掛けてきた動機が、近い位置で赤司を見守るためというのだから、もういっそ潔い。
とはいえ、赤司と国交断絶してもいちばん仲の良い友達なのだから不思議なものだ。
「ねぇ、マキは赤司君と仲直りしたいとは思わへんの?」
「たしかに、このままは嫌だけどさ」
「避けられてるから、っていうのはただの言い訳やで。待ち伏せしてでもお時間もらってきぃや。後悔するのは嫌やろ?」
「えりか……」
「ウチのためにも」
前言撤回。最後のひとことが芦屋の本音だ。
「あら、ずいぶん面白そうな話してるじゃない」
「え?」
不意に降ってきた声に振り向けば、実渕が日替わり定食を持って立っていた。
「ご一緒してもいいかしら?」
「あっ、どうぞどうぞ」
一も二もなく了承した芦屋は、実渕のことを知ってる風だ。
首を傾げるマキに、実渕は微笑みをもってその答えをほのめかした。
「芦屋さん、でしたっけ? 確かマネージャー志望のコよね」
「はっ、はい!」
さすがはファン1号。もう自分を売り込みにいってきたらしい。
マキが黙ってうどんをすすっていると、実渕から視線を感じたから「あ。どうも、こんにちは」と言うと、正面の友人から脛に蹴りが入った。
解せぬ。
「さっきの話、ちらっと小耳に挟んじゃったんだけど、征ちゃんのことよね?」
瞬間、芦屋の顔が真っ赤になった。
セイちゃんという耳慣れない単語は、どうやら赤司のことを指すらしい。そういえば赤司の名前は征十郎といったっけ。
でも、あだ名で呼ぶような穏やかな関係では無かったはずだ。この3週間に、何が。
「私も、和泉さんは征ちゃんと仲直りしてほしいと思うわ。征ちゃんにとってもその方がいいと思うの。私の予想だけど」
マキはただ、実渕を通して狐の姿を描いていた。
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