12

いつからだっただろう。
マキが、ヒトに「何か」が観えるようになったのは。


それに実体はなく、ふとした折にイメージ画像のように現れる。
人によって、動物だったり植物だったり、時には無機質だったりと、色々だ。
その画が人の性質を表すらしいことに気付いてから、マキが観てきた人間はもう何百人にものぼるだろうか。

それでも、目の前に並ぶ顔ぶれには圧倒される。


実渕の狐、葉山のオセロット、根武谷の水牛。
赤司の猫また。
白金の大蛇。

なんと動物的で風変わりで強烈な。そうそうお目にかかれない。


「和泉、聞いているのか」
「は、はいっ」

まさか何も聞いてなかったなんて言えるはずもない。
後ろからも視線を感じつつ、マキは書類が山積みの教員机に目を落とす。


「忘れ物を取りに行ったら、物理室で寝過ごした、とはね。つくづく、私に喧嘩を売っているとしか考えられない理由だな」
「……すみません。本当にそうなんです」

マキは、そうだよねと同意を求めたが、唯一の証人である赤司は視線を合わせようともしなかった。
まだ怒っている。
振り向いた勢いで忘れかけていた痛みが戻ってきて、改めてムッとした。


白金はそんなマキの注意を逸らすためか、ため息をつきながら世界史の教科書と資料集を差し出した。

「まあ、初回だし、ここまでにしておこう。授業で配布したものは渡しておくから、今回やった分まで家で学習しておくように」
「あの、今日ってどこまで進んだんですか?」
「同じクラスだろう、赤司にでも聞けばいい」

この部屋の空気をどう読み間違えるとそうなるんですか、そんなツッコミが喉から出かかっているマキに、白金は素知らぬ顔で、


「ところで、和泉。男子バスケ部のマネージャーになる気はないか?」
「へ?」
話をありえない方向に回転させた。


「どういうことですか、監督。僕にはどうしても意味がはかりかねるのですが。彼女はバスケ未経験者ですよ?」
「意味? 特に深い意味は無いよ。今日、マネージャーが1人辞めてしまったものでね。和泉は見た所お前たちとも仲良くできるようだから、ちょうどいいかと思ったまでだ」
「ですが、」

白金はなおも食い下がる赤司の言葉を遮って、マキの目を見ながら話を続ける。


「どうだね? あなたさえ良ければ。きっと向いているよ」

ぞっとして視線を逸らした。
マキの第六感まで、全てを見透かされたような、そんな感覚。ありえないようで、大蛇なら出来る気がした。

「……ごめんなさい。せっかくなんですけど、マネージャーとか、興味が無いので」
「そうか。残念だが、また気が向いたらぜひ言ってくれ」


せっかく部活の主要メンバーが集まったということで、そのまま打ち合わせに突入した。

こそりとその輪から抜け出して、「失礼しました」と言うと、実渕がちらっとマキを見た。
赤司は変わらず無視を貫いている。


マキは強烈な動物たちが集結したその部屋をそそくさと後にした。





prev/next

back



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -