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「そーいえば、お前何で監督に呼ばれてたの?」

葉山の声だ。マキは咄嗟にドアノブにのばしかけていた手を止めた。
言ったらきっと呆れられるだろう。マキはぎこちなく振り向きながら口を開く。

「ええっと、初回の授業なのにサボっちゃって……多分説教だと」
「はあ!? 信じらんない!」
葉山なんて大笑いしている。食堂に向かう人々がマキたちをちらりちらりと見ていった。

「ていうか……すごい度胸ね。この時期にサボりなんて。色々通り越して感心するわ」
「きっとめっちゃ怒られるよ? あーあ」
「昨日の赤司の1件でストレスも溜まりぎみだろうしな」
「はははっ、言えてる言えてる〜」



「お前たち、少し静かにしてくれ。中まで聞こえてる」

和やかな笑いが巻き起こった瞬間、全員の顔から笑みが消える。
ドアは内側から開いていて、目の前に赤司が立っていた。


「赤司……!? おまっ…」
「監督にちょうど呼ばれていてね。あんまり騒がしいから様子を見てこいと言われたんだ」

眉一つ動かさない赤司の顔を覗き込みながら、ふと思う。実渕たちと話すときと比べて、なぜかずいぶん首が楽になった。

その理由を探すのに1秒、閃いて口から飛び出すのに1秒。

「あ。赤司って、けっこう小さいんだ」

そして、マキが後悔するまで1秒もかからなかった。



かくん、と身体から力が抜けて、思いっきり腰を床に打ち付けた。左肩もにじりと痛い。
赤司は、マキの左肩があった位置に浮かせていた手を、ゆっくりと下ろした。

突如、毛を逆立てきった猫またが姿を現す。

マキは、刃物のような感情を受け止めながら、実渕の言葉を思い出していた。

何を言っても表情ひとつ変えず、冷静な対応で相手にもされない。
今の赤司にはその片鱗すら感じられない。まるで剥き出しだ。


「どうだい、90センチ近く上から見下ろされる気分は」
「首と腰と肩が痛い」
「……ずいぶん、調子に乗ったことを言ってくれるじゃないか」

赤司がマキと同じ高さまで降りてきて、感じの良い少年面を脱ぎ捨てている。その事実が、面白くて面白くてたまらなかった。


「怒ってるね」
「……は?」
「あの赤司でも、背のことなんて気にするんだなと思って。ごめん」

くすりと笑うマキを見て、赤司は逆に頭が冷えたようだった。プライドが高い赤司は、今の状態の自身をみっともないと判断したらしい。
常に腹が見えない赤司が、今はよく分かって不思議だ。



「一向に帰ってこないと思えば、これは一体どうなっているんだ」

その声で、場の空気がぴしっと締まった。
赤司とはまた違った存在感がそこにある。すぐ分かった。バスケ部顧問で社会科主任、白金だ。


「とりあえず、全員中に入れ」

すると、耳から水が抜けるときのようにぶわっと雑音が飛び込んできて、ギャラリーの視線に気付いた。


不思議な声だ。マキでも周りが見えてきた。


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