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助けられたのか、はたまた更に絡まれたのか。

逃げていく高2男子を横目に見ながら、マキは実渕を眺めてみた。

「気をつけてね。あいつって女癖悪くて有名なの。あなた、監督……白金先生に用でしたっけ?」

相手もまた、マキに探るような視線を投げかける。実渕の中で、白金先生と社会科研究室という2つの言葉は特別な響きを持つらしい。

「社会科研究室に呼ばれてるんですけど、どこだか分からなくって」
「……そう。なら、ついてらっしゃい。案内するわ」

残りの2人も、実渕の考えが読めないのだろう、少し先で困惑したように立ち止まっている。
マキはそそくさと実渕を追った。

「あの、あたし、全く話についていけてないんですけど」

実渕に、私があなたに何の話を振ったの? とにべもなく返されたが、ひるまない。


「さっきの先輩も、赤司の名前が出た途端、どっかに行っちゃったし、白金先生に呼ばれたって言ったら顔色を変えるし。赤司って一体何なんですか。訳がわからない」

相手が先輩だろうが先生だろうが関係ない。何事もストレートに、がマキの持論だ。


「あなた、もしかして帝光中出身じゃないの?」
「帝光……? どこだかわかんないけど、とりあえず赤司とは中学からの知り合いとかじゃ、全くないです」

心底驚いたような実渕は、マキが赤司と付き合ってるとでも思っていたのだろうか。だったら節穴もいいところだ。まだ出会って1か月も経ってないというのに。

けれど、葉山も根武谷も、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。


「本当に何も知らないのね。じゃあ、ウチの学校のバスケ部が強いことは知ってるかしら?」
マキがこくりと頷くと、実渕は説明を始めた。

赤司がバスケ界では天才と呼ばれる選手であること。
洛山へ進学する条件として、1年生であるにも関わらず主将になったこと。
そして昨日、バスケ部全員の前で自らが主将になることを宣言し、不平を唱えた部員たちを1人で負かしたこと。


「おかげで部員は激減したわ。当然よね、後輩に指示されるなんて誰だってたまったものじゃないもの。しかも、誰も全く歯が立たなくて。監督は今日も退部届の受理に追われてるんじゃないかしら」

実渕も悔しそうだが、どこか他人事のように言う。葉山も根武谷も同じだ。

この人達は、バスケ部を辞める気はさらさらないんだろうな、とマキは直感的に思った。


「ほら、ここよ。白金監督専用研究室。……あなたのこと、勘違いしててごめんなさいね。昨日のこともあって、少し気が立ってたの」
「いえ、あたしの方こそ、色々とありがとうございました」

良かった、いい人だ。

晴れやかな気持ちのまま、研究室のドアをノックしようとした瞬間、誰かがマキを呼び止めた。






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