白々

バス停を下りると、鴨川の河川敷にカップルが並んでいるのが目に入った。お気楽でいいなあと思いながら森の方へ足を向ければ「下鴨神社この先」というアバウトな看板。何やらチームラボがイベントを開催しているらしい。

東京でもあるまいし、とごちゃごちゃ考えこむマキをおもむろに木漏れ日が包み込んだ。
思わず空を仰ぐと、背の高い木々に芽吹いたばかりの若葉が太陽にすかされてきらきらと光っていた。

参道をしばらく行くと楼閣のような門があり、それをくぐった瞬間、目の前が真っ白になった。境内にしきつめられた砂が日光を反射していると気付くまでマキはその場でしばらく立ち尽くしていた。

ああ、来たなあ。
マキは両頬をぱんっとたたき、背筋を伸ばして砂州の間を歩きはじめた。普段はめったに来ることはない神社仏閣だが、物事にはしかるべきタイミングというものがあるのだと思わないではいられなかった。

神前に手を合わせ、目を瞑る。
それでもなお感じる眩しさの中で、征十郎の顔や猫またや指輪が、浮かんでは消え、浮かんでは消えた。
そんなマキが願うのは。


やわらかな風が通りぬけた。


「マキ!!!!どこほっつき歩いとんねんあんたは!!!!」

門を出てすぐかかってきた電話からえりかの怒声が轟いた。
マキはとっさに耳からスマホを遠ざけたが、それでも聞こえる声量は、さすが運動部マネージャーというところか。

「えーっと、下鴨神社ですね……」
「はああああっ!? 主将の言うこと信用するんじゃなかったわったくもう」
「征十郎が?」
「『今日のためにちょっと買い物がしたいって言ってたからすぐ戻ってくるだろう』って言うから待ってたらいつまで経っても帰ってこんし。今4時やで?わかる?」

なるほど、だから今まで電話一本かかってこなかったのか、とマキは納得しつつ征十郎の気遣いに微妙な気分になった。

「ごめん。すぐ帰ります」

タクシーで帰ってこい、と言ってえりかは電話を切った。気付けば日も陰ってきている。やれやれと思いながら、マキは帰路を急いだ。

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