赤司の贈物

「わかった」とマキは言うなり僕の手を振り払い、その小箱をひらいた。

ふかふかとした黒い布地に包まれた銀色の光に、マキは小さく歓声をあげた。
なんの装飾もない、華奢なリング。裏返してみると、マキのイニシャルが刻まれている。

マキはためらいなくそれを自らの右手の薬指にはめると、どこぞ記者会見のように指をそろえて、僕の鼻先に突き出してきた。

「見て、ぴったり。さすが征十郎」
「あ、ああ……」

見立て通り、それはマキの飾らない美しさを引き立てていたが、僕はそれどころではなかった。

「この場で開けることないだろ」
「なんで?」
「いや、だって。何かを察してもう少し時間を置くとか。色々」

そう言いながら、マキ相手に勿体ぶった自分が間違っているような気になってきた。
マキはきょとんとした顔で、僕を見つめるのみだ。

「なに、征十郎はこれを受け取らないでほしかったわけ?」
「そうじゃない」
「じゃあいいじゃん」
「そんな簡単に言わないでくれよ。マキは」

僕は深く息を吐きながら、目を閉じた。
こんなときに思い出されるのは、入学式直前、京都へ向かう新幹線で、碁盤を前に目を輝かせるあの少女の姿だった。
となりに座ったときにはもう全てが決まっていたのかもしれない。

目を開けると、記憶より幾分大人びたその少女が僕の言葉を待っていた。


「マキは、これからもずっと僕のそばにいる覚悟はありますか?」

マキは目をまんまるにして、口もぱくぱくさせて、僕を凝視した。

ざまあみろ、と思った。

「だから今答えなくていいって言ってるだろう。返事はいつでもいい。また送別会で」

僕がソファから立ち上がると、マキはぼうぜんと「帰るの?」と言った。
軽く手を振って、僕は応接間を後にした。

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