回顧

送別会。その朝、マキは起き抜けに気付いてしまった。
洛山高校バスケ部を引退する。
高校3年間を捧げた場所から送り出され、別れを告げるのが、他でもない今日である、と。


ドタン、とマキがベッドから落ちた音に、階下のおばあちゃんが怒鳴り声を上げた。

どうしてこんな大事なことを忘れていたのだろう。
マキは自問しながら、初めてバスケ部の体育館に足を踏み入れたときのことを思い出した。


その頃マキは、身長のことを言ったせいで征十郎に無視されていた。
実渕と芦屋に促されるまま、仲直りをしようと、仮入部期間のバスケ部へ。
それで、偶然目にした征十郎のプレーに感動して、初めてもっと近付きたいと思って。

記憶がそこまで来て、マキは恥ずかしさのあまり叫んだ。

なんで将棋なんて差したんだっけ?

『……それに、勝つことだけに意味があるって思い込むのは勿体ないよ?』
マキ自身の言葉が蘇る。若気の至りにもほどがある。


再びおばあちゃんの声がしたので、マキは慌てて大声で謝った。
部屋に誰がいるわけでもないのに、咳払いをしてみる。

思えば本当に色んなことがあった。

パニックで画が見えなくなったこと。
征十郎が馬術部の部長と付き合ったこと。
学園祭でミスコンに出場したこと。
どこぞの不良に監禁されたこと。
征十郎と付き合うことになったこと。

ウィンターカップに同行してキセキの世代に絡まれたり、試合の勝敗を予測するなんて無理をして倒れたりもした。


マキはベッドに身体を投げ出し、仰向けになった。
朝の光の中、天井がいっそう白く広がっている。
眼を閉じれば、今は遠い春の日の、新幹線で打ったあの碁盤が浮かんで見えた。


「マキ! いつまで寝とんねん! 征十郎くんが来とるで」



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