同棲

一緒に暮らすって、つまり同棲か。
とんでもない女だな。相変わらず。

と、征十郎は相好を崩した。声を上げて笑いだした。

「なにがおかしいの」とマキがむっとしても、征十郎は大笑いをやめない。
その様子が異様なので、だんだんとマキの頭も冷えてきた。
同棲しようなんて、浮気した彼氏の家に乗り込んできて一番に言うセリフではなかった。
むしろ、そんな距離感で言うには、あまりに女の必死さがにじみ出ていて滑稽だ。

マキが1人で後悔を始めたのを見てとったのか、征十郎は急に真顔になった。

「マキ、今は高校三年生の春で間違いないね?」
「そうだけど」
「僕らはまだ18歳。未成年だ。しかもマキはお祖母様の家に厄介になっている。そうだろ?」

征十郎は、教師が子供を諭すようにそう言った。

「僕はここの家賃を親父に出してもらっている。4月から通う大学の学費もそのつもりだ。マキに奢るご飯代くらいは自分で賄おうと思っているけれど、まだ経済的に自立しているわけじゃない」

征十郎はふと視線を落とし、ちゃぶ台に無造作にのせられたマキの手を見た。あかぎれ一つ、切り傷ひとつない、白魚のような手。そこに自らの手を重ねた。不思議な温かさに包まれて、マキは息苦しいほどの感情の昂りがなくなっていくのを感じた。

「対して、マキの実家はちゃんと豆腐屋で生計を立てて、マキを養っている。自由奔放で飽き性な孫娘を、見返りも求めず……
僕はまだあなたに責任を取れない。だから、一緒には暮らせない」
「でも、そういう大学生カップルっているじゃん……」
「僕が嫌なんだよ。けじめがない。違う?」

容赦のない言葉とは裏腹に、そこに浮かぶ表情は穏やかだった。

「ちがわないけど……」
「納得がいかなそうな顔だね。僕だってマキとずっと一緒にいられたらと思う。それは同じだよ。ただ、今じゃない」
「私が腑に落ちないのは、征十郎がさっきすっごい笑ったこと。ひどくない?」

マキがそう言うと、征十郎は決まり悪そうに、けれどしっかりと目を合わせてきた。

「僕が笑ったのは、振られる覚悟を決めた自分自身が馬鹿みたいだったからだよ」

その目の奥にあったのは、かすかに漂う緊張と、とめどない安堵だった。



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