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「1年1組和泉マキさん、至急、社会科研究室まで来なさい」

誰かが名前を呼んでいる。
浅い眠りを繰り返しながら、耳に残った音をつなぎ合わせていくと、
それは校内放送の音声だった。


マキが飛び上がった拍子に、丸椅子が転がった。青ざめながら見上げた時計は無情にも12時25分を差している。

「先生になんて言おう……」
結論。4限目の授業を丸々、物理室で寝て過ごしていた。早く言えばサボタージュ。

マキは物理室を飛び出して、とにかく走り出した。



実技科目の教室が集まる2号棟からいつもの1号棟に抜けると、急に人の気配が増えた。
過ぎゆく人のほとんどは片手にお弁当か財布を持っている。

お腹すいたなあ。
マキは鳴る腹を押さえながら、教室から廊下を挟んで北側に並ぶ小教室に目をやった。


漫研。合唱同好会。資料室。生徒会室。

恐ろしくカオスな品揃えだが、肝心の社会科研究室は見当たらない。

どうしよう、ときょろきょろしていると、数歩先にいつぞやの3人組を見つけた。
やけにピリピリしていると思ったら、話の中で赤司という単語が出てきて、マキは反射的に耳をそばだてた。


「……もう、癪に触るったらっ」
「あ〜うっさいな。今更どうこう言ったって仕方ねーじゃん」
「違うわよ。私だって、悔しいけど彼の実力は認めてる。キセキの世代との差は中学時代から分かっていた話よ」

「じゃあいいじゃねぇか。俺は昨日のアレでいっそ吹っ切れたけどな」

「はぁ、何言ってんの!? 赤司征十郎の何が嫌って、私たちと同じ土俵に上がろうともしないところがムカつくのよ。皆が何を言っても表情ひとつ変えないじゃない」

何だか、とてもしっくりくる。マキが赤司に対してくすぶらせていた感覚を言葉にするなら、まさにそんな感じ。すごい。


「なー、新入生だよな? どーしたん? こんなとこで」

突然かけられた声に、マキははっと我に返った。感心してる場合じゃない。社会科研究室を探していたんだった。


「……あの、社会科研究室ってどこですか?」
「研究室? 真っ直ぐ行って2つ目の小教室やけど、なに、白金センセに用か?」
「あ、はい」

すると、例の3人組がくるりと振り向いた。男はそれに気付いてないのかベラベラと喋り続ける。

「そっか〜あいつ、ウチの顧問なんだわ。バスケ部の。ここだけの話、めっさ厳しいで。入学早々大変やなぁ。君、どこのクラス?」
「えっと、1年1組の」
「1組!? ほな、赤司征十郎っつー奴いるやろ」
「はい……?」
マキが首を傾げた瞬間、心持ち視界が暗くなった気がした。


「知ってるなんてものじゃないでしょうよ、その子なら。主将の機嫌を損ねたくないなら、うかつに手を出さないことね」
「ぐげっ、実渕!?」


マキの横に、綺麗な顔をしたオネエ口調の大男が立っていた。





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