meeting




「赤司が進路相談? はっ、マジかよ。『僕に逆らうやつは親だろうが殺す』とか言ってたのは誰だよ」


青峰は思いっきりハンバーガーを頬張った。


「しっ、青峰君。滅多なことを言っちゃだめです」


正面に座る黒子は青ざめながら、口元に人差し指を当てた。
二人はとあるマジバのベランダ席で、遅めの昼を食べていた。
駅前だけあって、月曜日にも関わらず、店の中も外も混み合っている。


「だーいじょうぶだよ。あいつは確かに怖いけど、お前の話がほんとなら、弱ってんだろ今」
「だからこそですよ。手負いの虎が一番危ないって言うじゃないですか」
「テオイって」
「怪我してるって意味です」
「いつでもちょっとイタイ奴って意味か?」


小首を傾げる青峰の背後から、人影が一つ近づいてくる。
黒子は自らの額に手を当て、ため息をついた。


「誰が痛いって?」


間も無く、ふんぞり返る青峰の真後ろに赤司が立った。
青峰はその姿勢で凍りつき、救いを乞うような眼差しを黒子に向けた。


「……テツ、俺やっぱ死ぬ?」
「どうですかねえ。赤司君、お久しぶりです」
「やあ、黒子。忙しいところ悪いね」
「いえいえ、君が相談なんて、そうそうないことですから」
「黒子はいつでも優しいな。この前の電話も助かった」


黒子は音を立て、バニラシェイクを飲み切った。


「キモッ……あ、無理無理無理、この姿勢でヘッドロックは死ぬ、死にます、赤司ごめんって」


失言した青峰の首に、容赦なく赤司の腕が回る。
黒子もしばらく目を白黒させていた。
赤司が前代未聞に優しい。


「ひょっとして疲れてます?」
「……ああ。この2日、いや3日か。色々ありすぎた」
「話は聞くので、とりあえず座ってください」


そうして、その4人席のテーブルでは、黒子と、赤司・青峰が向かい合った。
珍しい組み合わせだ、というのが目下3人の共通の見解である。

2年前、凶悪なアメリカ人チームと対戦して以来、『キセキの世代』グループラインなるものが存在していたのだが、先日そこで、赤司が暇な者を募集したのだった。

緑間は一身上の理由で、黄瀬は仕事、紫原は東北にいるから欠席。
その結果、この面子である。



「黒子はともかく、まさか青峰が来てくれるとは思わなかった」


赤司はそう言いながら、テーブルの真ん中に広げられたポテトをじっと眺めている。
揚げ油でも気になるのか、手を引っ込めたり、伸ばしたりしている。


「あー、まあ、何の用か気になったから。洛山の連中に相談しづれーから、俺らんとこに来たんだろ」
「その通りなんだが……」
「スポーツ推薦の件は、もうお父様からお許しを得たんですよね? 万々歳じゃないですか」


赤司はポテトから視線を外し、一度空を見て、目を伏せた。



「突然だが、お前たちは彼女に浮気がバレたことはあるか」


「「はあ?」」
黒子と青峰の声が重なった。


「まず僕、彼女いないんで帰ります」
「ちょっと待ってくれ。話はそれだけじゃない。彼女の方も男と会ってたんだ」
「じゃー別れればいんじゃね」


黒子は立ち上がりかけ、青峰は小指を耳に突っ込んで掻きはじめた。
しかし赤司はあくまで真顔だ。


「そう物事は簡単じゃないんだ。俺はマキのためにバスケを取ったようなものだし、さらさら別れる気もない」
「じゃあなんで浮気するんですかね……」
「進路のことで自暴自棄になってた。でも今は違う」
「じゃあお互い様だし、チャンチャン、で忘れろよ」
「お前は彼女が他の男といて正気でいられるのか?」


赤司は常に正気の沙汰とは思えない、というツッコミは青峰も黒子も控えた。


「しかも、マキが会ってたのは、秀徳の宮地という男なんだ」
「えっ、覚えてますよ僕。2つ上の代の人じゃないですか。なんでそんな人が」
「趣味つながりだそうだ。お互いバスケ関係者だとは知らなかったらしい」


それまで上の空の青峰だったが、ぼそっと呟いた。


「秀徳なら洛山と何度もやってんだし、知らねーってことはねえだろ。お前のカノジョめっちゃ目立ってたし」
「……お前もマキをそんな目で」
「うわーっ、うわーっ、ちょっと待て誤解。俺は巨乳じゃなきゃダメだし、まだ死にたくねえ」

「青峰君はほっといて。細かいことは聞きませんけど、彼女さんには自分の浮気の弁明と、これからも別れたくない旨と、宮地さんのことを怒っているって、ちゃんと言ったんですよね?」


赤司は黒子のまっすぐな視線から逃げるように、青峰を見た。


「言おうと思ったら、ちょうど例の女が傘を返しに来て、鉢合わせて、喧嘩になって、マキは京都に帰った」
「予想外に修羅場じゃねーか」
「だからお前たちに聞いてるんだ。俺はどうも感情に疎いところがあるから、お手上げなんだ」


黒子はため息をつきながら、ポテトに手を伸ばした。


「お二人だけで仲直りするのは難しいでしょうから、誰かに仲裁を頼むか、仲直りのきっかけを作ってもらうのがいいんでしょうね」
「あっ。秀徳なら、緑間はどうしたんだよ」
「とっくに聞いたさ。『お世話になった先輩をむざむざ殺させる訳にはいかない』と黙秘を通されたよ。この件に関しては、干渉しないと」
「じゃあ洛山の人たちに頼むのは」
「悪くないな。そろそろ、俺たちの代の引退式があるんだ」



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