同類




マキは、自他ともに認める飽き性である。

少女漫画から始まり、将棋、乗馬、音楽、料理、果ては釣りまで、熱中しては冷め、を何度繰り返したことか。
そのあたりの経緯をもっともよく知る母親は、マキが3年間征十郎と付き合っていることを、奇跡と称する。


そんなマキが、もう1年も続けている趣味があった。
アイドルの追っかけである。
しかも、異性でも大手でもない、地下出身の5人組の少女たち。
とはいえ、最近はファンも増え、テレビへの露出も目立つようになった。


一般に、自分の推しが売れるようになると、手のひらを返す輩が、特に地下アイドル界隈では、多い。
だが、「同志」たちは、彼女たちの活躍を心の底から誇りにしていた。
ほかでもない「同志」たちの、トゥイッタ―やライブを通じてはぐくんだ結束の固さによって、彼女たちが売れるようになった、と自負しているからだ。

マキも「同志」の1人である。
彼女たちが一度、京都のライブハウスにやってきたとき、何気なくのぞいたのが最後、やさしい「同志」たちに引きずり込まれるように、どハマりした。
それ以来、普段から「同志」たちとトゥイッタ―で情報交換し合い、ライブに際しては遠征もいとわず、グッズも買い込み、最前で踊り狂っている。



しかし、今回の東京遠征は特別だった。
なにしろ「ワンマン」なのだ。ほかのアイドルグループと合同せず、彼女たちだけが、チケットを売り切ったのだ。都内でも有名な、大きなハコで。今や、彼女たちは押しも押されぬアイドルになったのである。


「マキちゃん、俺は今ほんっっっっとうに嬉しい。もう轢かれてもいい」
「まだだめです。彼女たちの雄姿を見届けなきゃ」
「そうだな、そうだよ、今夜じゃねーか!」


マキは、「同志」の1人と、会場近くのファミレスで、ライブに向けての最終調整をしていた。
年が近いのもあって、特に親しくしていたその男には、トゥイッタ―のアカウント名とは別に、本名も聞いていた。

その男は、宮地清志という。


「そういやさ、マキちゃんってJKなんだよな。この時期、受験とかはいいの?」
「あ、言ってませんでしたっけ。あたし、推薦取ってて」
「まじかーー。勝ち組じゃねーか」
「いやいや、おこぼれにあずかれただけですから」


宮地はぶつぶつ言いながら、飲みかけのアイスティーのストローを噛んだ。
マキも自分のホットココアを口に運ぼうとすると、傾いたマグカップごしに宮地と目が合った。
口元はゆるく弧を描いているが、目はやたら鋭い。


宮地の画は、鹿だ。
奈良にいるような軟弱なのではなく、もっと大きくて、強い、北国の牡鹿。
その画には、こうしてたまに影が差す。
どこか遠い山の上で、一人立ち尽くしているとき、地上に向かってのびていくような、影。



「宮地さーん、顔、顔」
「え? なに、なんかついてる?」
「違いますよ。顔がコワイです」


マキがおどけて、肩を両手に抱き、震えてみせると、やっと宮地の目元がやわらいだ。


「そうかな。俺、わりと物腰は柔らかい方って言われるんだけど」
「でも、中身は軽くヤンキーですよね」
「……ばれた?」


それから宮地は、珍しく自分の高校時代の話をしてくれた。

はじめの方は、マキも笑って聞いていた。生意気な1年をしばき倒したり、合宿で吐くまで走らせたり、とイメージ通りだったからだ。
が、東京のバスケの強豪校だった、というあたりから雲行きが怪しくなってきた。
高校生活最後のウィンターカップはあっけないものだった、と宮地が力なく言ったときには、マキには苦笑することもできなかった。


何の因果だろうと思った。

マキが自分の能力を使って、洛山の参謀の真似事をして、負かした相手。
マキがバスケと距離を置くきっかけとなった、あの試合の相手。

宮地は、あの秀徳の選手だったのだ。



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