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「じゃあ、この絹豆腐と湯葉をもらおうかな」

昼食を食べ終わり、マキと赤司は店に出ていた。
赤司は賭けの結果に関わらず豆腐が欲しかったらしい。ケースの中を覗き込む後ろ姿が心もちご機嫌だ。

「……そんなに好きなんだ。はい、560円です」
春休み中の練習を思い出しながら金額をレジに打ち込む。
おいおい仕事にも慣れておけと言われていたが、学校初日から実践する羽目になるとは。


「僕としては、こんな環境で育ったのに豆腐が好きじゃない方が不思議でたまらないよ」
「あたしだって嫌いじゃないよ? でも、高校生の好みとしては渋いと思う」

「渋い、か。僕はこの家だって風情があってなかなか好きだけどな。由緒正しい京都の町屋って感じで」
「ふーん? そうかな」
「……全く、重ね重ね勿体無いな」



不意に、チリンと扉に付けられた鈴が鳴った。
お客さんだ。

「実渕ィ、何で豆腐屋なんだよ。スキヤ行こうぜ、スキヤ」
「うっさいわね。あそこの料理、添加物の塊じゃないの」
「あ。かわいーこ発見」

がやがやと店に入ってきたのは男子高校生3人組だった。全員並外れて身長が高く、ガタイも良い。
そんな見かけでも高校生と断定できる理由、それは3人とも洛山の制服を着ていた。


「いらっしゃいませー」
マキは厨房にも聞こえるように声を張り上げた。
おばあちゃん、ヘルプミー。

「あら、標準語が聞こえると思ったら。あなた、女将のお孫さん? しかも新入生みたいね」
「は……はい。すみません、すぐに祖母が参りますので少しお待ち下さい」

早く行こう、とマキは赤司に視線を送る。だが、赤司はその場を動こうとせず、ただ一点を見据えていた。


「久しぶりだな。いや、コートの外では初めましてか」

赤司の言葉で3人の間に流れていた和やかな空気が一瞬にして凍りついた。まるで、化け物でも見たかのように。
「……お、お前……」


「実渕、根武谷、葉山。まさかこんなところで会うとは思っていなかったよ」

猫またが唸り声をあげる。
マキに負けて笑っていたときと同じ雰囲気、あの奇怪な雰囲気に包まれる。
豆腐の前で頬を緩めていた男の子と同じ人間だとは到底思えなかった。


「……知らないかもしれないけど、私たちにもプライベートな時間があるの。バスケ以外で私たちに関わるのは止めてもらえるかしら? 赤司主将」
「言われなくても退散させてもらうよ。僕の私的な時間もすっかり興がそがれたようだし」
「……え」
「和泉、おばあさんによろしく伝えといてくれ」

敵意に満ちた言葉のキャッチボールの応酬がマキに回ってきた。探るような視線が一斉に集中する。
マキがわたわたしている間に赤司は店から姿を消していた。


「あらぁ、お客さんて実渕クンやったのん? 久しぶりやなぁ。今日は部活はないんか?」
すると、赤司と入れ違うようにおばあちゃんの声が聞こえてきた。

助かった。
マキは心底感謝しながら、一目散に部屋へ向かった。




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