▼七夕の約束
夏未は理事長室の窓から曇り空を見上げて溜め息をついた
それに気付いた鬼道は「どうした?」と尋ねる
「今日は七夕だけど、この分じゃ、今夜は天の川は見られそうに無いわね」
「天の川なら七夕でなくても見られるだろう」
「七夕だからいいんじゃないの」
「七夕か…そう言えば商店街にはたくさん七夕飾りがあったな」
「子供の頃は短冊に願いを書いたものだけど…」
夏未は懐かしそうに笑う
鬼道は夏未の傍まで来ると、同じ様に空を見上げた
「願いは自分で叶えるものだ…短冊に書いて祈るなど、他力本願も良いところだ」
夏未は呆れた顔で鬼道を眺める
「それに七夕の話と言うのは、織姫と彦星夫婦があまりに結婚生活が楽しくて、自分達の仕事を放棄し、天帝が怒って2人を引き離し…」
すらすらと語り出す鬼道の言葉を否定もせずに、夏未は聞いている
こんな鬼道でも幼い頃は七夕飾りや祭りを楽しんだに違いない
それを考えると、夏未の顔が綻んだ
「…そんな様な話だったような気がするが」
「どうかしらね、小さい頃に聞いた話だから忘れちゃったわ」
夏未はふふ、と微笑んで鬼道を見詰め、再び空を見上げた
その横顔を見詰めながら、鬼道は呟いた
「俺なら」
「え?」
「俺ならそんなヘマはしない」
いつの間にかゴーグルを外した鬼道が真剣な表情で自分を見詰め、夏未はただ、その視線を受け止める
「大切な人と過ごす時間は、それは楽しいだろう…」
鬼道はそっと夏未の頬に指先で触れた
「しかし、その時間に浸り過ぎてその人と離れ離れになってしまうなど、な」
ニヤリと笑う鬼道に、夏未は頬を染める
「だから俺は、大切な人とずっと一緒にいる為に、最大限の努力をし、責務を果たす」
鬼道の指先が夏未の唇をなぞり、優しく、鬼道の唇が触れる
真っ赤な顔の夏未の耳元で、鬼道が何かを囁き、その顔を見詰める夏未
そして涙ぐんで俯いた
そんな夏未の額に、自分の額をこつりと合わせて…鬼道は囁いた
「返事は?」
上目遣いで鬼道を見詰めた夏未が、可愛らしい唇で「はい」と返事を返すと、鬼道は嬉しそうに微笑んで…再び夏未に唇を重ねた
「卒業したら、婚約しよう」