×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼願いごと


こればかりは運に頼らざるを得ないわ…


朝食中、思わず夏未は溜息をつく
食欲があまり無いので、フルーツ入りのヨーグルトだけを食べる事にする

「食欲が無いのか?」

総一郎が心配そうな顔で夏未を見詰める

「そんな事は無いんだけど、ちょっとね」 

夏未は慌てて取り繕うが、自然に表情が曇ってしまう事には気付いて居ない
総一郎はそんな夏未に苦笑する、と、何かを思いついたようだ

「今日から新学期…クラス替えだな」

夏未の眉がぴくりと反応したのを見逃さなかった総一郎は、さらに畳み掛けた

「鬼道君と同じクラスかどうか心配なのか?」
「!!!」

顔を赤くして無言で俯いてしまう夏未

「理事長権限で夏未と鬼道君を同じクラスにしてやろうか?」
「そういう不正はいけません!!」

きっ、と総一郎を睨み付ける夏未は本気で怒っているようだ
慌てて総一郎は「じょ、冗談だよ」と取り繕う
そんな総一郎を見て、夏未は深い溜息をつく
総一郎なら本気でやりかねない
鬼道の事をいたく気に入っていて、この間も「デートはいつするんだ?」と催促された位なのだ


最も…気に入られないよりは、いいけれど


夏未はふ、っと総一郎に気付かれないように笑うと、時計を見ながら立ち上がった

「もうそろそろ行くわ、今日は歩いて行くから」



学校に向かって歩きながら、夏未は落ち着きなさい、と自分に言い聞かせていた
ともすれば沈みがちな気分になるし、何だか緊張しすぎているような気がする…

今日は新学期、クラス替えだ

今までは鬼道と同じクラスだった夏未だが、今年はそれは半ば諦めている
好きな人とクラスが同じになる、なんて都合の良い事が起こる筈が無い
けれど、ほんの少し、…期待してしまう自分が居る


でも、期待して行って期待が外れたら、それはとてもショックだわ…
だから初めから期待しない方が良いのよ
そうよ、そうするべきよね


夏未はよし、と小さく呟く
すると後ろから声がした

「何が、よし、なんだ?」

聞き覚えのある声に振り向くと、鬼道が歩み寄る所であった
夏未の緊張が一気に高まる

「何でもないの…」
「そうか…、今日は車では無いのか」
「ええ、たまには歩こうと思って」

歩いてのろのろと、学校に行きたかった
クラス替えの発表を、見るのが怖かったからだ

「そういうものか…しかし今日はクラス替えだぞ、もっと嬉しそうな顔をしたらどうだ?」

意外な鬼道の台詞に、夏未は思わず目を見張り、咄嗟に聞き返した

「どうして?」
「また同じクラスに決まっているからだろう」

夏未はぽかんとした表情で、何故か自信満々の鬼道を眺め、それから口を開いた

「どうしてそう言い切れるのよ」
「強く願ったからな、俺様が願って叶わない事はほとんど、無い」
「何よ、その自信は……これは運に頼らざるを得ないわよ」
「そんな事は無い、運は自分で引き寄せるものだ…」
「引き寄せられたら凄いわね」

夏未は皮肉を言ったつもりだったが、鬼道はニヤリとする

「雷門」
「え?」
「口に出して、願え」
「ええ?」
「そうすればスッキリする、きっと叶う、言葉には、力が宿るのだ」
「……鬼道君はそうやって願ったの?」
「…まあな」

ちょっと照れくさそうな表情で、夏未を見詰める鬼道
そんな鬼道を見つめているうちに、声に出して言葉にすることで、本当に願いが叶うのではないか、と言う気になってくる

「…鬼道君と同じクラスになりたいわ」
「よし、もう一度」
「鬼道君と同じクラスになりたい!」

言ってしまうと、鬼道の言う通り何かスッキリして、朝から続いていた緊張が解きほぐされた気がする
嬉しくなって、思わず笑顔になる夏未
鬼道も何処か嬉しそうな表情で、そんな夏未を眺めるのだった


「嘘…」

夏未は思わず横にいる鬼道の制服の裾を掴んだ
すると、鬼道は静かに呟いた

「だから言ったろう」

力強いその言葉に夏未は鬼道の方へと顔を向ける
その表情は朝とは打って変わって嬉しそうに輝いていた

「私凄く嬉しい…」

思わず呟いた夏未に、鬼道が返事を返す

「これで席が隣なら俺は大満足なんだがな」
「其処まで願うなんて、贅沢よ」
「隣がダメなら後ろか前」
「もう…」

夏未はほんのり頬を赤くして、まだ掴んだままだった鬼道の制服の裾を離す
すると鬼道が夏未の指先に自分の指を絡ませた
咄嗟に鬼道に目をやる夏未

「大丈夫、皆、目線は上だ」
「〜〜〜〜」

夏未の心臓をドキドキさせるだけさせて、鬼道は手を離した
思わずホッとする夏未

「今ホッとしたろう」
「当たり前でしょ!」

歩き出す鬼道の後を追って、夏未は歩き出す
言葉は多少の怒りを表してはいるが、同じクラスになれた喜びで、自然に笑みが溢れてしまう
それを鬼道に知られない様に、夏未はひたすらにその背中を見つめながら歩くのだった






目次

[短編/本棚/TOP]