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▼いつか


………………何故だ

何故、義父がもう家に居るのだ

雷門の車に送られ、家のエントランスに降り立った俺は、その場に仁王立ちする義父を見つけて驚いた

「お、おお有人帰ったな!」

何処か浮き足立って居る義父の様子に俺は絶句する


一体何故義父はこんなに嬉しそうなんだ?


しかし義父の視線は俺の半歩後ろに立つ雷門に注がれている事に気付いた
俺の熱が高いのを心配して、雷門はエントランスまで付き添って来てくれていたのだが…


まさか
まさかとは思うが


「初めまして、雷門夏未と申します」

雷門は臆する事なく義父に挨拶をしてくれる
流石に雷門夏未だ…
義父が顔を綻ばせにこにこと笑顔を見せる

「おお、君が夏未さんか、雷門さんはお元気かな?」
「父をご存知ですか?」
「仕事柄ね」
「あ、そうでしたわ…失礼致しました」

雷門が軽く礼をすると、義父は「いいんだよ」と優しく言葉をかける

「今日はわざわざ済まなかったね、有人が部活で倒れて、雷門のお嬢さんに送って頂けると執事から連絡を貰って、慌てて帰って来たんだよ」

義父はハハハ!と軽快に笑った

どうしたんだ一体そのテンションは…初めて見たぞ

「なんせ、こんなチャンスは、いや、有人が大変世話になっているんだ、一言挨拶をと思ってね…どうだね、夏未さんお茶でも」

『大変世話に』の箇所で義父の声が一段と大きくなり、俺は顔が火照った
一瞬、熱のせいなのか何なのかわからなくなる

「え…ですが」

雷門は困った表情でちらっと俺を見る
義父がそれに気付く

「あ、有人、お前は熱があるんだったな!早速自室で休みなさい、後は執事に任せてある…直に主治医の先生がお見えになるだろう」

先程から俺の心に渦巻く疑問…

『鬼道様の御宅には御連絡を差し上げておきました』

場寅さんが言っていた…

まさかとは思うが…
もしかして義父は、雷門に会うチャンスを逃すまいとあらゆる予定をキャンセルして帰って来てしまったのでは無いだろうか…?
しかし先程それを裏付ける発言をしていた気も…
ああダメだ
頭が朦朧として…


「すみません義父さん、では先に休ませて頂きます」
「うむ!そうだぞ!お前は我が鬼道家の大事な跡取り…身体は大切にしなければな」
「はい」

異様に高いテンションの義父を眺め諦めにも似た気持ちになる
悪く言えば、品定め、と言った所だろうな…すまない雷門…

「さあ夏未さん行きましょうか!」
「えっ…でも、あ」
「義父を頼む…」

俺は義父に連れて行かれる雷門に、そう言うのが精一杯だった






「有人!」

バアンと扉を開ける音と自分を呼ぶ声で、俺は目が覚めた

「と、義父さん…?」

義父さんは興奮して俺の部屋中を歩き回りながら喋りまくった

「いや全く恐れ入った、彼女は本当に中学生かね?うーん…流石に雷門さんの代理を勤めるだけの事はあるな!先が大変楽しみだ…しかも女性としての魅力も兼ね備えていて品のある佇まい…会話も上手いし、将来は美しくなるだろう!でかしたぞ有人!」

そう言ってくるりと振り返った義父の顔は、きらきらと目を輝かせ鼻の穴を膨らませ興奮しきっている
大きな取引が成功した時の様な…いやそれ以上か

「あの生中継でお前が彼女とお付き合いしていると知った時、まあ、私は当然彼女がどんな人物なのか、と言う事を調べさせた…その理由は分かって貰えると思う、我が鬼道財閥の跡取りであるお前はやはり身元の確かな女性とお付き合いして貰いたいからな」

一端言葉を切り、「分かるか?」と尋ねられた俺は頷く

「蓋を開けたら雷門さんの娘と知って一安心したよ…、しかし調査は紙に書かれた言葉、実際に会って話してみなければその人となりは分からないものだからな!いいチャンスは無いものか機会を伺っていたのだ…用事を装って学校に行ってしまおうかと思った事もあったが、良かった!」
「義父さん、今日は…」
「その通り、全てキャンセルして夏未さんに会う為だけに帰って来た!その甲斐が合ったぞ…実に有意義だった」
「義父さんに気に入って貰えて良かったです…」

俺がそう言うと義父がきらりと目を光らせた
…ように見えた
俺は水差しの水を飲もうとコップに水を注いだ


「思い切って婚約してしまうか!」

俺は水の入ったコップを落として割った

「そんなに嬉しいのか?良い反応だな」

ニヤニヤと笑う義父に俺はまたもや絶句する


何でそんな…本当にどうしてしまったんだ義父さん…


「…俺達は、まだ中学生ですし」
「しかし契約は、いや提携、違う…兎に角いいものや人材は早く押さえるにこした事は無い、好き合っているなら尚更では?お前恋のライバルとか居ないのか?」


まさか義父から『恋のライバル』なんて言う言葉が出て来ようとは…


「仰る事は分かります…ただやはり、まだ早すぎます…まだ中学3年生ですし…きっと雷門もそう言うと」
「そうか…残念だな」
「時期が来れば自然にそうなるでしょう」

うーん、と非常に残念がる義父に苦笑いして、俺は再び義父に尋ねた

「雷門のどんな所が気に入ったんですか?」
「……あまりにも夢中になって話をしていたら、ふいに彼女が笑ってね」
「……」

『そうやって、夢中になって息も付かずに話される所は鬼道君そっくりですね、……血は繋がっていなくとも、長い時間共に過ごすうちに似て来るものなのですね』
『そんなに、似ているかね?』
『その話し方、そっくりですわ』


義父が照れながら、嬉しそうに笑うのを俺は本当に初めて見た
熱いものが込み上げる…

「そう、ですか…」
「良いお嬢さんだな」
「はい」

横になるよう俺を促すと、義父は執事を呼び、割れたコップを片付けるように命じた後、「大事にしなさい」とやっと普段の義父に戻って…部屋を出て行った







『親として嬉しかったみたい』

雷門の言葉に、俺は義父の態度にようやく納得した

俺が携帯に電話すると、雷門は俺の身体を気遣って、話をする事を躊躇った
しかし俺は雷門と義父がどんな話をしたのか気になっていたし…何より今日のテンションで義父が雷門に婚約の話を持ち掛けていないかどうしても確認しなければならなかった

幸いも義父も其処まではしていなかったようだ


『鬼道君のこと、とても大切に想ってらして…それが伝わって来たわ…自慢の息子なんだ、って何度も仰っていたわ』
『そうか…いろいろ義父の話を聞いてくれて有り難う』
『貴方も、もう少し甘えてもいいと思うわ』


やはり雷門だな
核心をつくのが上手い…

どうしても育てられた恩が先に立ってしまう…
しかし今日の事は、戸惑いはしたが…俺にとっても義父の新たな一面を発見した良い機会になった


あの、照れながら、嬉しそうに笑う義父を思い出し、思わず口元を綻ばす

『…そうだな、これからはそうしてみよう』
『みよう、じゃなくて自然にね』
『それには雷門が一緒に居てくれると非常に助かる…俺と義父の2人では限界がある』
『おかしな人ねぇ』
『義父も喜ぶ…何せ義父は今すぐにでも』

俺は慌てて口を噤んだ
危ない
うっかり言うところだった

『なぁに?』

可愛いその声に、思わず携帯の向こうの雷門が思い浮かんで…会いたい気持ちが募る
自然に言葉が出て来る

『なあ』
『え?』
『いつか…雷門が、その、良かったら…なんだが、俺と』
『…どうかした?』

俺はハッとして、バチバチと頬を叩くと『何でも無い』と誤魔化した

『言いかけて止めるなんて…!』
『いや、いつか必ず言う』
『何を?』
『秘密だ』
『もう…何よ!』
『俺がそんな誘導尋問に引っ掛かる訳無いだろう』
『気になるじゃない!』
『さて、そろそろ切るぞ、俺は風邪なんだ』
『貴方が話したいって言うから…もう!』


俺は笑いながら、最後に『好きだぞ、雷門』と言うと返事を待たずに携帯を切った

きっと『言うだけ言って何て人なの!』と顔を真っ赤にさせているに違いない
それを思うと笑みが零れた


きっといつか、必ず








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