×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼心配なんて




鬼道は唸って目を開けた
視界はいつものゴーグル越しのものでは無かった


白い壁?
いや、天井…、か


顔だけを横に向けて周辺を観察すると、この場所が保健室である事が判明した

「……」


何だか頭がズキズキする
ああ、そうか、そうだった
今日は昼頃から調子が悪かった
熱があるのかも知れない
頭痛が酷いのはきっとそのせいだ
大丈夫だと思って軽く見ていた…失態だな


「あ、気付いたみたいだ」

保健室に入って来たのは豪炎寺
廊下に居る誰かに何かを伝えると、豪炎寺は保健室に入って来た

「大丈夫か?」
「面目ない」

豪炎寺はホッとした表情を見せる

「熱があるようだ、黙っていたのか」
「体調が悪かったのは事実だ、まさか熱があるとはな」

鬼道は苦笑する

「心配かけたな」
「今、風丸が先生を呼びに行ってる…それから円堂も」
「全く情けないな…」

豪炎寺は苦笑すると、窓の外のグラウンドを眺めた

「雷門がかなり心配していた」
「……そうか」
「正直、みんな驚いた」
「……すまん」
「違う、悪いがお前が倒れた事にじゃない」
「?」

不思議そうな表情の鬼道に、豪炎寺はふっ、と笑い

「雷門にだ」

と言った






プレイ中、ボールの奪い合いをしていた鬼道が、目眩を起こして倒れかかったのを支えたのは風丸だった
突然の出来事にメンバー達は騒然とする

「鬼道?」
「……すまん、何でも」

無い、と言おうとした鬼道だったが言葉が出ないようだ

「ベンチに運ぶ!誰か手伝ってくれ!」

ベンチに寝かされた鬼道を見て、円堂が風丸に問い掛けた

「何かあったのか?例えば、ぶつかったとか」
「いや、突然倒れかかったから俺が支えたんだ」
「体調悪いとか、聞いてないか?」
「普通だったけどな…」

浅く呼吸する鬼堂をメンバー達が不安そうな表情で眺めた

「とりあえず、保健室に運ぼう」

豪円寺の声に一同が頷き、円堂が夏未に声をかけた
今日は春奈が用事で部活を欠席し、秋もまだ来ていなかった

「夏未も一緒に」

そこまで言って、夏未の顔を見た円堂が息を呑み、思わず口を噤んだ
その円堂の様子を不思議に思ったメンバー達が夏未を見る

夏未は、自分自身が倒れてしまうのでは無いか、という程顔色が悪かった
硬く、今にも泣きそうな表情で、鬼道だけをただ、見つめている

「雷門」

風丸が近付いてそっと声を掛けると、ようやく風丸の顔を静かに眺めた

「大丈夫だよ、保健室の先生に診てもらおう、雷門もついててやって?」

夏未は無言で頷いて、円堂と豪炎寺、風丸、半田、染岡が鬼道を運んで行くのについて行く
その後ろ姿を眺めながら、壁山はぽつりと呟いた

「夏未さんのあんな顔、初めて見たッス」
「で、ヤンスね」

栗松が静かに同意して、宍戸が頷く
其処へ、秋がやって来た

「どうかしたの?」
「あ、木野先輩!大変なんです!」

事のあらましを少林から聞いた秋は、急いで保健室へと向かった


秋が保健室に着いた時、丁度先生が体温計を鬼道から取り外す所だった

「熱があるわね、倒れたのは、そのせいよ」

ホッと息をつくメンバー達

「良かった!!何か悪い病気だったらどうしようかと」
「円堂」
 
豪炎寺にたしなめられて、円堂は慌てて黙って夏未を見た
夏未は呆然とした表情で、やはり鬼道を見つめていた
秋が静かに歩みよって「夏未さん」と呼ぶと、夏未は秋の顔をやっと見る

「大丈夫よ、良かったわね…」

秋が優しく、穏やかな声でそう言うと、夏未はこくりと頷いた
そして、唇をきゅっと結んだまま、瞬く間に瞳に溢れんばかりの涙を湛えた

その様子に円堂、豪炎寺、風丸、半田、染岡が声も出せずに驚いている

夏未は大粒の涙をぽろぽろと零しながら、言葉だけは、強気を保とうと語気を強める

「人騒がせ、なんだから!」
「うん」
「皆に心配をかけて!」
「うん」
「自己管理できないなんて、選手として失格じゃなくて?」
「そうねえ」

秋はくすくすと笑うと、まだ何か言いたそうな夏未をそっと保健室から連れ出した




「泣くんだ」

半田がぽつりと言った

「そりゃあ」

風丸が苦笑する

「…凄い心配してたって事だろ、鬼道の事」
「まあな」
「ホッとして、泣くほど…」

半田が、ややふてくされて、そっぽを向いた
その表情は幾分怒っているかの様にも見える…

「何だまだ諦めて無いのか?」

染岡が笑うと半田はちょっぴり顔を赤くしてムキになった

「別に、そういうんじゃ…ただ、雷門は、皆の憧れみたいな、もんだったろ、だから」

おかしな言い訳は何処か未練がましさが感じ取れる
しかし染岡はそれ以上突っ込む事もせず、鬼道の顔を眺めている

「はいはい、そうだよな」

かわりに応えた風丸の言葉に、半田はぶつぶつと「何だよ」と呟いた

「でも、驚いたよな、俺達の前で泣くなんて」

円堂が眠っている鬼道の顔を眺めながら、改めて今起きた出来事に浸る
円堂も、何となく複雑な表情をしているのは気のせいだろうか
と何気に豪炎寺が思った時、鬼道の頭の下にアイス枕を入れながら先生が言った

「此処でお喋りは良くないわね、付き添いは2人まで」

そう言われて、風丸と豪炎寺が残る事になり、他の3人はグラウンドへと戻って行った

「ちょっと職員室に行って来るから、もし気付いたら知らせに来て頂戴」

頷いて先生を見送ると、豪炎寺と風丸は椅子に座る

「雷門は大丈夫かな」
「木野がついてる、大丈夫だろう…鬼道が気付いたら、知らせに行けばいい」
「そうだな」

そう返事をした風丸が、独り言の様に呟いた

「幸せ者、だな…鬼道は」

豪炎寺が風丸の方へと目をやると、少し寂しそうな表情をした風丸が、鬼道を眺めている
豪炎寺は何故か何も言う事が出来ず、時計の針の動く音だけが、部屋に響くのだった

「ちょっと水分取って来る」

風丸が立ち上がり、豪炎寺も

「俺も」

と2人は一端保健室を後にした






「今日は部活は休んで、夏未にでも送って貰えよ」
「…ああ、すまん」

円堂と風丸、豪炎寺が保健室を出て行くと、夏未が秋に連れられて入ってきた

「じゃあ、後は宜しくお願いね夏未さん」
「ええ…」

夏未は戸惑いながらも、秋に微笑んで頷く
その頬に涙の痕を残したまま、夏未は鬼道の傍へ近寄った

「言いたい事がたくさんある、と言う顔をしているぞ」
「…別に」

椅子に座った夏未が、ベッドに横たわった鬼道を眺めた
ただし、何処か視線を逸らし、きちんと鬼道の目を見ている訳では無い
其処には夏未の複雑な感情が絡まっているのだ、と
鬼道は咄嗟に察して苦笑いした

「…そんな病人みたいな貴方、らしくないわ」
「みたいな、じゃなくて病人なんだがな」
「…家まで送るわ」
「すまないな」
「じゃあ、場寅に車を、回すように言って来るわね」

硬い表情のまま立ち上がろうとした夏未の手首を、鬼道が掴んだ

「もう少し」
「え」
「傍に居てくれないか」
「でも、先生も直ぐに帰るよう仰っていたでしょう?」
「分かっている、だから、もう少しだけだ」

そう言って夏未を見詰める鬼道の視線に逆らえず、夏未は椅子に再び腰を下ろした
鬼道はその手を離さずに、2人は手を繋ぐ
そしてやっと夏未が鬼道に向かって微笑んだ

「少しだけよ」
「ああ」

嬉しそうに、しかし神妙に、鬼道は呟いた

「…心配かけて、すまない」

夏未は一瞬目を見開いて、鬼道を見詰めた後、涙を滲ませて慌てて俯いた
そしてその顔を見せず返事を返す

「…心配なんて、してなかったわよ」
「そうか」

事の顛末を豪炎寺から聞いていた鬼道は、そう答えた夏未から目を逸らし…天井を見つめて微笑むのだった







目次

[短編/本棚/TOP]