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▼夢のあと


『私…好きなの…貴方の事が』
『!!!』

好きって
好きって
好きって言った!!
どっ…どうしたらいいんだ?
こ、これ、これほどまでの衝撃とはッ…!!!
くそ!顔がにやけてしまうでは無いか…!

雷門…俺も、俺も大好きだ





ぎゅううっと枕を抱き締めて、鬼道は目を覚ました

「……」

ぼーっとして、むくりと起き上がり時計を見る
針は5時を差している


清々しい気分だ…
俺のこの気分に合わせる様に今日の天気も晴れの様だ
はっきり言って朝からご機嫌で申し訳ないが辺りをはばからず大笑いしたい位だな

しかし昨晩は思いがけずなんと素晴らしい事件が起きたものか…
まさかこれが全て自分の妄想、…今見てた夢だったらかなりのショックだが


………………


まさか夢ではあるまいな!!


鬼道は手で口を覆い、青ざめた

思い出せ
昨晩はあの後雷門を部屋に送って、その後ぐっすり眠ってしまったのだ…
嬉しすぎてなんだか良く覚えてない…俺とした事が…


鬼道は慌てて着替えると居ても立ってもいられずに部屋を飛び出した





扉を蹴破る勢いでやって来たのは不動の部屋

「起きろ不動おぉ!何時まで寝てるんだ!」
「なっ?何だアア?」

鬼道は不動の胸倉を掴むとベッドから引きずり出し、パンパンと往復ビンタをくらわした

「いッ…いてッ!」
「痛いか?ん?痛いか?」
「いてーよ!!!」

次に鬼道は不動の頬をぎゅううってつねった

「あだだだだた!」
「これも痛いな?」
「ひでででッ」

うーむ、と鬼道は唸り、掴んでいる不動の胸倉を離した

「朝から何だよ畜生!」
「いや、ちょっと夢か現実か区別がつかない事が起きてな…夢なら痛くないだろう?」

鬼道はそう言い、ハハッとやや虚ろに笑った

「寝ぼけんなコラ!何訳わかんねー事やってんだよ!普通自分をつねるだろーが!!俺がやってやる畜生」

しかし、伸ばされた不動の手を叩き落とした鬼道は

「却下する、もう用は済んだ、ではな」

と言ってさっさと不動の部屋を後にした

「2度と来るな!」

不動の悪態が聞こえるのを無視して鬼道は考える


どうやら夢では無いようだな


少し混乱している鬼道は自分の行動がちょっぴりおかしなものになっている事に残念ながら気付いて居ない

そのとばっちりを受けた不動はまさに運が悪かったとしか良いようが無かった


まだ少し早いし、ランニングでもしてくるか


気を取り直した鬼道は玄関に差し掛かり、其処で偶然にも夏未を見かけた
朝食の用意や洗濯などの仕事のあるマネージャーの朝は早いのである

ドキドキと心臓が高鳴って緊張が鬼道の全身に走る


…………こ、声を掛けるべきか


一瞬迷ったが、躊躇いながら「雷門…」と小さく声を掛けた

「あ」

夏未は気づいてぱたぱたと走り寄って来て、頬を染めた

「お、はよう…」
「ん?少し、目が腫れてる…か?」

鬼道が小さく囁くと、夏未は「平気よ」と笑った

その可愛いこと


やっぱり夢じゃなかった
俺は何て幸せ者なのだ
ああもう一生雷門と一緒に…


そんな事を思いながら、鬼道はうずうずと夏未を抱き締めたい衝動を何とか抑え込む


昨日は勢いで抱き締めてしまったが、俺達はまだ中学生…行き過ぎた行動は慎まねば


などと心に決めて、きりりとした表情で夏未を見詰め、そして笑い掛けた

「俺は今からランニングだ」
「私は今からお味噌汁作るのよ」

一瞬で鬼道の頭にエプロン姿の夏未が登場し、にっこりと笑顔を見せる


味噌汁か…!
例えどんな味だろうと俺が全部食ってやりたいゼ
一生雷門の味噌汁が食いたい!
何なら俺が作ってもいい
そして交代でな、台所に立つのだ
楽しいだろうなアハハハ


ふと夏未に目をやると、不思議そうな表情で自分を見詰める瞳

鬼道の頭でこんな妄想が繰り広げられているとは露ほども思って居ないその顔はとても可愛い…

昨晩、自分を好きだと言ってくれた瞬間の瞳を思い出し、鬼道の心臓が高鳴る
もう一度だけ、夏未の口から、その言葉が聞きたいと願ってしまう…

「鬼道君?」
「雷門…」

じいっと夏未を見詰める鬼道
その視線を受け止めて、夏未はぽうっと顔を赤くする

「もう一度…言ってくれないか」
「えっ…」
「頼む」

夏未は鬼道の言葉の意味を察して益々顔を赤くする

「私が…言ったら…鬼道くんも…言ってくれる…?」

恥じらった表情でそうお願いされたら、断れる筈などない
鬼道は素早く頷くと「約束する」と言う言葉まで付け加えた

その鬼道の言葉を受けて、夏未は意を決した表情をすると口を開きかけ…

「あれっお兄ちゃん?夏未さん?」

春奈の声に、咄嗟に夏未が口元を押さえ振り返った


おおわが妹よ、お前はなんて良いタイミングで現れるんだ…


思わず苦笑すると鬼道ははぁ、と小さく息を吐く

「どうしたんですか?」

春奈が近寄って来ようとするのを、鬼道は言葉で遮った

「何でも無い、ロココを暫く出入り禁止にしてはと雷門から提案があってな」


すらすらと誤魔化しの言葉が出てくる所は流石だ
そうとは知らず、春奈は納得した表情を見せた

「ああ、そっか…流石夏未さんですね!」
「先に行ってて音無さん、すぐ行くわ」
「はーい」

夏未がふう、と息をついて鬼道へと目線を戻すと、鬼道は夏未の耳元で囁いた

「後でまた、聞かせてくれ」

夏未は顔を赤らめて短く頷き、その場を後にする
その後ろ姿を眺めながら、鬼道は思う


心が通じ合っているからこそ、ずっとずっと一緒に居たいと願ってしまうものだと
そして、とても切ない…


「俺と…したことが」

そう呟き…
切なさを無理矢理心の奥に閉じ込める

そして鬼道は、ランニングをする為に晴れ渡った空の下へと駆け出して行くのだった








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