×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼夢で逢えたら(鬼夏編)


「鬼道君」


雷門?


名前を呼ばれた様な気がして、俺は後ろを振り向いた
しかし、其処には誰も居ない
思わず溜め息をついたのを誰かに気付かれなかったか、俺は咄嗟に、素早く周りを窺った

幸いにも周りには気付かれなかったようで、ホッと安堵する


部活が終わりメンバー達がバラけて行く中、円堂が近寄って来た
どこか、何か心配そうな、真剣な表情だ

「なあ、鬼道、夏未は?」


…付き合っている俺すらたまにしか呼んだ事が無いと言うのに、こいつはどうしてこう平然と、当たり前の様に、しかも人の彼女を名前で呼べるんだ…


などと考えている事を悟られないように、俺は平静を装って答える

「学年末で忙しい、暫くは部活に出られないと言っていたぞ」
「へえ…そっかあ〜」
「何か用事か?」
「いや、何か鬼道が元気ないからさ」

その言葉に俺が絶句したのは言うまでもない


そ…?
そんな…
そんな風に見えるのか?


「……そんな事は全然、全く、無い…元気だ」
「そっか?」
「そうだ!」

思わずムキになってしまい、俺はそそくさと部室へ向かった


…後で豪炎寺に聞いた所によると、その時の俺の顔は今までに誰も見た事の無いような怒りと悲しみと驚きの混ざった複雑な表情をしていたようで、良く円堂が無事だったと密かに囁かれていたらしい


円堂にすら気付かれる程、俺は元気が無いんだろうか
いつもと同じ
何ら変わる所は無いと自負している


着替えながらふと思い立つ


……もう3日、雷門の顔を見ていないんだな


忙し過ぎて教室にも顔を出せない位だ
しかし理事長も娘に代理をやらせてばかり居ないで少し…
いやいやこれは雷門家の問題だからな
俺が口を出すべき事じゃない


ふと気が付くと、自然と溜め息が出てしまっている
む、溜め息をつくのは何回目だ?


「大丈夫か?」

声のした方へ目をやると、豪炎寺が苦笑しながら部室に入って来た所だった

「……何がだ?」
「やはり3日も雷門が部活に来ないと、鬼道でもこたえるのか」


何を言うんだ豪炎寺


「…俺はいつもと変わらん」
「自分で気付いて無いんだから面白いな」

反論しようとしたが、言葉が出なかった

「…電話してみたらどうだ」

豪炎寺の言葉が変に胸に染み込む
そうした方が良い、と背中を押してくれる

「………ああ」
「ようやく認めたな」
「うるさい」
「顔が赤いぞ」
「余計なお世話だ」

くっくと笑う豪炎寺を放って、俺は着替えを済ませ部室を出た
丁度その時、風丸と半田とすれ違った
ニヤついている半田が気にかかる、一体なんだ


「鬼道お疲れ!」
「ああ、お疲れ」
「元気出せよー」

振り向くと半田が風丸に「バカ!余計な事言うな!」とこづかれている


……よっぽどだな


通常なら半田に怒る所だが、素直に認めようではないか

半田にからかわれる程俺は意気消沈しているらしいな
まあ円堂にすら気遣われる位なんだから仕方無いか



俺はポケットに入れた携帯に手を伸ばした

その刹那、携帯が鳴った

慌てて誰からかも確認せずに携帯に出る

「はい」
『鬼道君?』

心臓が飛び出しそうになる
と言うのはこういう事を言うのか
初めて知った

「雷門か」

みっともない
声が上ずった

『ええ』

3日ぶりだ
声を聞いただけなのに、気持ちがふわふわしてくる
形容するなら、浮かれている、と言う言葉がピッタリだ

『ちょっと』

雷門は其処で一旦言葉を切る

『寂しくなったの』
「…!」
『声だけでも、聞きたくて』

あまりにも素直に自分の気持ちを吐露する雷門に、俺は驚き、浮かれた気分が一層強まった

そうなるともはや、ただ嬉しさと喜びの感情が自分を満たしていくのみ

そして感情とはどんどん溢れて来るもので…喜びから、切なさに変わり…それは抑えようも無く、情熱的に俺を変えてしまう

「俺も寂しい」
『本当…?』
「嘘は言わん」
『…嬉しいわ』

普段なら言えないような言葉まで口から飛び出す始末で、サッカー部の連中に聞かれたら恐らく生きていけない

「まだ忙しいのか?」
『あと2、3日って所かしら』


2、3日か…長いな


「ではそれまで会えないのか」
『…ごめんなさい』


謝らなくていい
雷門のせいじゃない…

けれど、…会いたい


「早く…会いたい」
『…私もよ…』

言葉にすればする程、会いたさが募る
胸が詰まって苦しくなる

「…夢で、逢えたらいいのに」

思わず呟いていた

『珍しいのね…貴方がそんな事言うなんて』

耳元で聞こえる、くすくすと笑う声

「…本気だ」

冗談では無いと気付いたのか、雷門の笑い声が止む

『……そうね…本当に…』

雷門の声のトーンが変わって、言葉に詰まった
携帯の向こう側の雷門の様子が手に取る様に伝わって来る
俺と同じ気持ちでいてくれる

『…夢で逢えたらいいのに…』

俺の言葉を繰り返す雷門の声が切なく響いて、俺は何だか泣きたくなった






目次

[短編/本棚/TOP]