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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼痴話喧嘩


イナズマジャパンFFI制覇の夢が叶ったその日の夜
宿舎では賑やかな祝勝会が開かれている

そんな中、鬼道は秋と楽しそうに会話する夏未の姿を見つけた

夏未にとって秋は只のサッカー部の仲間では無く…きっと親友と言える間柄なのだろう
同性同士だからこそ垣間見せるその表情を、鬼道は眩しく見つめている

「んっふっふ」

背後からいきなり聞こえた笑い声に、鬼道は勢い良く振り向いた

「お兄ちゃん…夏未さんを見てるわね」
「何だ春奈か…驚かすんじゃない…!」

鬼道の言葉に悪びれもせず、春奈はにニヤリと笑みを見せる

「いつデートするの?」
「…予定は未定だ」
「何だつまんない」

つまらないと言われてもな…と笑う鬼道を眺め、騒がしい会場をぐるりと見渡すと、春奈はふう、と息を吐いた

「いろいろあったけど…やっぱりお兄ちゃんは凄いね」
「ん?」
「FF優勝、イナズジャパン代表に選ばれて、ついにFFI優勝だなんて…サッカーをやってる人は沢山いるのに、それを経験出来るって一握りの選ばれた人達だけよね」

感慨深げな表情で春奈は鬼道を見詰め、鬼道はその視線を受け止めながら「だが…」と続ける

「俺1人の力じゃない…俺に最適なサッカーの環境を与えてくれた人達や、切磋琢磨出来る仲間に恵まれなければ今の俺は居なかったかも知れない…」
「お兄ちゃん…」
「まあ素質自体は俺に備わっていたものだがな」

そう言って鬼道はニヤリとした

「んもーお兄ちゃんったら…その俺様体質直さないと夏未さんに嫌われるよ」
「そんな事は無い」
「全くもう…」

春奈は呆れた顔をすると「目金さんにもお疲れ様を言って来なくちゃ」と鬼道の元を離れた
丁度その時、秋の元から夏未が離れたので、鬼道は夏未に向かって足を向ける

鬼道が近づいて来ることに気付いた夏未が柔らかな笑みを見せた

「木野と何を話していたんだ?」
「何でも無いわ、…秘密よ」

夏未が振り返ると、秋は豪炎寺と嬉しそうに笑い合っている

「楽しそうだな」
「そうね」

鬼道はテーブルからグラスを取ると、ジュースを注いで夏未に渡す
自分の分もグラスに注ぎ、それを口にした後、鬼道は思い立った様に呟いた

「これで曲でも流れていれば、一曲お相手を、位は言えるのだがな」
「あら、残念だこと」


夏未は鬼道の言葉ににこりと微笑んだ

「…信じてないようだが…彼の時の為に仕込まれているからな、足など踏んだりしないぞ」
「誰もそんな事言ってないでしょう」
「その笑い方が怪しい」
「失礼ね」

言葉とは裏腹に、夏未は楽しそうにくすくすと笑う
流石の夏未もFFI優勝というジャパンの快挙に気分が高揚しているのだろう
そしてふいに、真面目な顔でメンバー達を見回すと口を開いた

「…やっぱりイナズジャパンに戻って来て良かったわ…」

鬼道の脳裏にロココの姿がふいに浮かんだ

「……コトアールの連中は反対したんじゃないのか」
「…ふふ、どうかしら」

夏未は曖昧に言葉を濁し、視線を逸らす

鬼道は何かを思いついたのか口を開け、しかし思い直して口を閉じる
そんな事を2、3度繰り返した後ようやく言葉を吐き出した

「…コトアールの連中は皆お前を名前で呼ぶのか」
「大介さんが最初に呼んだから…それで皆も自然にね」
「ふうん…」

鬼道にしては間延びした返事の仕方に、夏未は思わずその顔を見る
すると鬼道はうっかり小声で口走ってしまった

「………俺だってあんまり呼んだ事ないのに……」
「…………」

夏未が目を丸くし、しげしげと自分の顔を見つめたので…鬼道ははっとして一瞬気まずそうな表情をし、…そして、ふい、と顔を逸らした
夏未が若干嬉しそうな表情を見せ、核心に迫る
こういう時、聞かずにおれないのが夏未の悪い癖だ

「妬いてるの?」
「は?何を藪から棒に」

夏未の言葉に鬼道はハハッと小馬鹿にしたように笑う
先程の自分の言動を無かったことにしたようだ

「俺が誰に妬くのだ、理由が分からんな」

夏未は信じられないと言う顔をすると鬼道に食って掛かった

「だって貴方今『俺だってあんまり呼んだ事無いのに』って言ったわ!」

鬼道はぐッと息詰まった表情をして、しかし尚もとぼける事にしたらしい

「…何のことかな?」
「だから…私の名前よ」
「…そんな事は言ってない」
「何ですって?」
「聞き間違いでは無いのか?それか妄想」
「も…?!」

妄想と言われ、夏未の眉が吊り上がった
しかし鬼道は自分がうっかり口走った事実を認める訳にはいかなかった
どうしても!!
そのプライドの高さは今の時点では残念ながら夏未に対しても如何なく発揮されるらしい

そして対する夏未は自分自身が少しばかり気を落としている事に気付いてはいない
その感情が一層鬼道を責め立てる気分にさせる事にも



「都合が悪いことは忘れてしまうと言う事かしら?貴方の記憶力も大した事ないのね…とんだご都合主義だこと」
「ななな…何だとう!」

夏未の的確な指摘に、鬼道はいきり立ったが…残念ながら事実は変わらない
それを更に夏未が攻撃する

「事実を言ったまでだわ」

夏未は腕を組んで鬼道を上から目線で眺める
その態度にカチンと来た鬼道は迷わず反撃を繰り出す
だが夏未をそうさせているのは自分だと言うことにも、実はちゃんと気付いているのだがどうにも止まらない

「何が事実だ…そっちこそ俺に妬いて欲しいんだろう…素直に言えばまだ可愛げがあるものを…」
「なっ…何ですってええ!!」

夏未は些か図星を刺された格好だが、その事には全く気付いておらず、きっ、と鬼道に鋭い視線を投げつけた

そして夏未と鬼道はテーブルに割れるのではないかと言う勢いでグラスを叩き付け、中身が跳ねあがって飛び散った
一言でも何か言おうものなら、それに噛み付いてやる、と言う勢いで睨み合っている2人を止めたのは…

「はいはいはい!其処まで〜!」

鬼道と夏未が声のする方を見ると、春奈がにこにこして2人に歩み寄る
その後ろにはイナズジャパンのメンバー達が揃ってにやにやしながら2人を眺めていた

「痴話喧嘩は外でどうぞ〜」
「ち!痴話喧嘩なんか」
「そうよ!ただ私達は」

かあああッと瞬時に顔を火照らせながら必死に言い訳をしようとする2人に風丸が言い放った

「はいはい!喧嘩する程仲が良いのは分かったから!」
「ちゃんと仲直りして来いよ、鬼道」

豪炎寺にまで諌められて鬼道は言葉を詰まらせ…にやにやと自分達を見詰める視線に耐えきれず、顔を赤くした夏未はさっさと会場を飛び出してしまった

「喧嘩の理由なんて些細な事でしょ?多分お兄ちゃんが悪いのよ」
「は、春奈!」

ぐいぐいと春奈に背中を押され、会場を追い出された鬼道は仕方なく玄関から外へと向かった






そして向かった先……其処には夏未が空を見上げて立っていた

夏未は鬼道の気配を察したのか、振り向かず、先程とは打って変わった静かな声で話し始めた

「…昨日もこうやって月を見たわ」
「…そうだな」

鬼道も改めて月を見上げる
すると今まで高ぶっていた気持ちが不思議と落ち着いて行く


「…見てて、くれたのか」
「ずっと、貴方を見ていたわ」

夏未は振り返ると、恥ずかしげに鬼道に笑いかけた
その微笑みに鬼道の胸の閊えが急速に溶けていく

「月を見ていたら、些細な事で怒って馬鹿みたいだと思ったの」

そうさせてしまったのは自分だと、鬼道は素直に反省する

「…そうだな…」

夏未は再び鬼道に背中を向け、鬼道は夏未に歩み寄り、謝罪の言葉の代わりに後ろからそっと抱き締めた

「喧嘩する程仲が良い…か」
「…恥ずかしいわ、皆に見られてしまって」
「…いいじゃないか」

鬼道は腕に力を込める

「お前には誰も手出しさせない…」

そう囁く鬼道の声は夏未の耳に、そして心にじんわりと優しく響いた

夏未は鬼道の腕に手をそっと触れると

「…うん」

と小さく呟いた



いつもと変わらず其処に在る月は、そんな2人を静かに照らしていた






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