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▼強がる君の元へ


二年生も今日で終了となる終業式
春休み目前のその日、鬼道は理事長室に呼び出された


わざわざ理事長室に呼び出すとは


鬼道は夏未の意図を計りかねて、ドアの前で首を傾げた

ドアをノックすると「入りたまえ」と声がする

いつもと違うと感じた鬼道がドアを開け…理事長室に足を踏み入れると、夏未が座っていると予想した椅子に腰を下ろしていたのは、本来その椅子に座るべき、理事長その人であった

総一郎は頬を緩め鬼道に笑いかけるとまず謝罪をする

「すまないね、急に呼び出して」
「いえ、大丈夫です」

総一郎は今まで自分が読んでいた書類を机上の端へ置くと、徐に立ち上がり…窓辺へと進んだ

そして鬼道の方へ顔を向けると軽く頷いて、自分の方へ来るように無言で促し、窓から外を眺めた

鬼道が傍まで近寄ると、コホン、と一つ咳払いをして総一郎が窓の外を眺めたまま、口を開く

「……最近」
「はい」
「部活の方はどうだね?」

あまりに普通な質問に、鬼道はやや肩すかしを受けた
総一郎が自分を此処へ呼び出した理由は何なのか
回りくどい世間話など良いから、単刀直入に話して貰えると助かるのだが、と鬼道は率直に思う

「……楽しくやっています」

と無難な返答をすると、鬼道は総一郎の背中を眺めた

「…何か…?」

逆に鬼道が質問すると、総一郎はひとつ、深く、溜め息をついた

「…夏未が、最近塞ぎ込んでいるんだ」
「…はあ」

何とも間の抜けた声を出してしまった
鬼道は少しばかり後悔すると、改めて問い返す

「それが、何か…?」

総一郎は鬼道のその質問に勢い良く振り向いた
あまり反応の良さに鬼道自身思わず体を強ばらせてしまう程だ

「単刀直入に聞こう!君は雷門中から帝国に戻るつもりは?無い!だろうね?」
「え゛っ!!」
「どうなんだね鬼道君!」

鬼道に歩み寄り両肩を掴む総一郎は必死の形相だ
思わずその力の強さに鬼道は眉を寄せてしまう

「……そ、その予定はありませんが…」


その答えを聞いて、鬼道の肩を掴んでいる総一郎の両手から力が抜けた

「すまない…つい」
「い、いえ」

鬼道から離れ、総一郎はふうと息を吐いた

「中継で見ていたが」

鬼道は思わず両手を握り締めた

「えー…な、夏未とデート、するとか…」

躊躇いながら聞いて来る総一郎は鬼道の顔を真っ直ぐ見ようとしない
思わず鬼道もゴーグル越しだが、目を逸らした

「……まだ実現はしてませんが…」

いよいよ核心だ
鬼道は覚悟を決める

「…君は夏未と…」
「お付き合いさせて頂いています」

きっぱりと言い切った鬼道の顔には迷いは無く堂々としている

考えてみれば、今の今までこの質問をされなかった方が、不思議な位だな、と鬼道は思う


「……本来なら今の質問が先だったね」

総一郎は鬼道に笑いかける

「……夏未が塞ぎ込んでいると言ったね」
「はい」
「部活ではどうかね」
「……努めて明るくは、振る舞っています」


そう
鬼道自身それに気付かない筈が無かった
何か思い詰めた様な表情が多く、訪ねても「何でもない」と堅く笑うだけだったのだ


「夏未は何も言わないが…もしかしたらと思って尋ねてみたんだ」
「はい」


『今年のサッカー部にも期待出来そうだね』
『……』
『今までのメンバーに、宇都宮君も加わるだろうからね』
『…今までのメンバーとは、いかないかも知れないわ』
『何故だい?』
『………鬼道君は……もしかしたら…帝国に…』
『帝国?転校届は提出されてないだろう?』
『…あっ…な、何でも無いの!ごめんなさいお父様、もう休むわね』


「!!」
「それが夏未が沈んでいる原因なのかと思ってね…つい、君が転校しないかどうか確認しなければと気が急いてしまったんだ…すまなかったね」
「……いえ…」

この雷門を離れるなど、そんな気持ちは欠片も無かった
円堂達、得難い仲間が居る
春奈が居る
そして…

「…ご心配おかけしました」

丁寧に頭を下げる鬼道に目をやりながら、総一郎は言った


「私は君を評価している」
「はい」
「サッカー部の一員としてだけでは無く、一個人としての君もだ…」
「ありがとうございます」
「…夏未との交際も、喜ばしいと思っているよ」

鬼道は姿勢を正し、再びお辞儀をする

「ありがとう、ございます」
「親バカだがね…その」

鬼道は総一郎の言いたい事を察して、その言葉の先を繋いだ

「はい、今からでも」

鬼道の言葉を受けて、総一郎はやっと安心したのか深く、頷いた

「流石だね!君は!」

バン!と背中を叩かれ、思わず咳き込む鬼道に、今やご機嫌になった総一郎がたたみ掛けた

「そのうち君のお父さんにも挨拶を「いやそれはまだ大丈夫ですから!!」

後退って顔を赤くする鬼道に「そうかね?」と残念そうな表情を見せる総一郎

鬼道は慌てて再びお辞儀すると

「失礼します!」

と挨拶をして理事長室を出た


実際
義父も中継は見ていたであろうが…未だにそう言った話は無い

おそらく自分から話をすべきなのだろうとは思う

ただ、雷門夏未がどういう人物か、位は既に把握はしているだろうが…


「良い、時期かも知れないな」

鬼道は独り呟くと、歩き出す


夏未の元へ


彼女の不安を解消出来るのは自分だけなのだから
きっと、赤い顔で、涙を浮かべながらこう言うだろう


『そんな事、気にしてなんかいなかったわ!』


思わず、はは、と独り笑うと、鬼道はそんな夏未の台詞を早く聞きたくて歩みを早めるのだった





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