×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -


▼仕返し


FFIも終わり…イナズマジャパンのメンバー達は帰国の途についた
空港からそれぞれが故郷に戻る帰路につき、雷門中へと戻るキャラバン内のメンバーの数は些か数が
少ない
疲れが出たのだろう…しんと静まり返ったバスの座席で、メンバー達はすやすやと寝息を立てている


そんな中…信号で止まった振動で、夏未は目を覚ました

「……」

朦朧とする意識の中で、隣の窓際で眠っている鬼道の寝顔を眺める


…終わってしまったのね


僅かな寂しさを感じ、夏未は溜め息混じりに息を吐いた


…でもきっと、新たな目標に向かって走り出すのね…


そんな事をふと考え、ぼうっとしていると、鬼道が身じろぎした
そして自分を見詰める夏未に気付く

「…どうした?」

優しく囁くその声に、夏未の心臓が跳ね上がる

「…なん、でもない、の」
「…そうか」

鬼道は夏未の頭を優しく撫で、その長い髪の毛先を指で弄んだ
ぼんやりとしたその様子は未だに夢の中にいるような感じが見てとれる

「…疲れたか?」
「いいえ…でもまだ眠いわ…」

未だに高鳴りを止めてくれない自分の心臓
優しく自分に触れる鬼道が、たまらなく好きと感じる


思わず言葉にしてしまいそう


そんなの自分らしく無い、と夏未はその衝動を抑え込む


「…なあ」
「?」
「FFI優勝の褒美をくれないか」
「…?」

夏未が不思議そうな表情を見せると鬼道は無言で微笑み、徐に夏未の唇に指先で触れた

「……?……ッ!」

鬼道が自分を見詰める眼差しの意味を悟って、夏未は危うく立ち上がりそうになった

「ダッ…!!」

鬼道は今度は自分の唇に指を当てて、し――っ、と囁く
中腰の夏未は慌てて座席に引っ込み、鬼道はそんな夏未の耳元に口を近づけた

「皆が起きてしまうだろう」

鬼道はそう言うと、くっ、と笑い、赤い顔でわなわなと肩を震わす夏未を眺めた

「まだ何も言っていないが?」
「……っ!」

両手を膝の上で握り締める夏未を見詰め、鬼道は少し残念そうに尋ねる

「…やはり、駄目か?」
「あたりまえでしょう…!」

小さく囁く夏未の声には、ありあまる怒りと恥ずかしさが込められていて、必死にそれを抑えているのが表れている


そういうことは、こんな、ところでするものじゃ…
そんなこと鬼道くんだって解って…

…私をからかっているのね…本当に頭に来るわ…


すっかり眠気が覚めてしまった夏未は、悔しさに唇を噛んだ

「残念だ」
「……」

そう言って再び眠りに入ろうとする鬼道を横目で見詰め…夏未は不意に鬼道へと向き直った
そしてその唇に、夏未は指先を添わせた

「?」

不可解なその行動に、鬼道は不思議そうな顔をする

「……?」

そして夏未は、優しく、その名を囁く

「……有人」
「…え?」

鬼道の頬が赤く染まり…それを確認した夏未が顔を近づける

「えっ…あっ、えっ?」

鬼道はおかしな声を上げて身を後ろへ引き、ゴンと窓に頭をぶつけた

夏未はし――っと唇に指を当てて呟く

「皆が起きるわよ」

目を細めて微笑んだ夏未を真っ赤な顔で鬼道は見つめている
そして夏未の行動の意図を瞬時に悟った

「おま…っ!」
「先にからかったのは貴方よ」
「………!」

胸に手を当てておののく鬼道の姿は滑稽で、夏未は溜飲が下がった

「仕返しよ」
「……だからって…だからって…!!」

くそ…と小さく呟く鬼道の隣で、夏未はくすくすと笑い、鬼道は赤い顔でそっぽを向いた



雷門中への道のりは、まだ、長い






目次

[短編/本棚/TOP]