▼垣間見た想い (鬼夏編佐久間視点)
佐久間視点 鬼夏
俺はあまり彼女を知らない
過去に何度か見かけた事があるだけだ
「理事長の娘?」
「そうだ、最初は雷門中サッカー部を無くそうとしていた時もあったらしい」
可笑しそうに笑う鬼道の表情は柔らかく綻んでいる
鬼道にそんな顔をさせるなんて
そんな事を考えていると俺の耳にいきなり悲鳴が飛び込んできた
「きゃああ!」
俺達が振り返ると、その彼女がつまづいて…書類を辺りにばらまいてしまった所だった
彼女は床に手をついて、何とか体勢を保っている
鬼道が慌てて駆け寄って助け起こす
俺は散在した書類や資料をかき集めた
「少し抱えすぎだろう」
鬼道に言われると彼女は少し顔を赤らめながら、頷いた
「怪我は無いか」
「ええ」
彼女は床についてしまった手で慌てて髪を耳にかける
その拍子に手が頬に触れ、その箇所に汚れがついた
「…汚れてるぞ」
鬼道はするりと彼女の頬を撫で、親指で頬に付いていた汚れを落とす
…………ん?
「…ばっ…」
一瞬で茹で蛸の様になった彼女は、鬼道を睨みつけ、しかし隣の俺の存在に改めて気付いて、途端に挙動不審に陥った
「…っ…あ……!!」
…俺はかき集めた資料を彼女に差し出した
「…ありが、とう…佐久間君」
よっぽど恥ずかしいのか、彼女は未だに顔を赤くしたまま礼を言う
こんなに近くで彼女を見たのは初めてだ
そして直接話すのも
「…いや」
……なるほどな
……そう言う事か、鬼道
「それじゃ」
「ちゃんと洗え」
「分かってるわよ」
俺達に背を向け走り去る彼女を見送ると、鬼道はふ、と笑った
「…全くよくやるよ」
「ん?」
「大丈夫、俺はお前のもんに手え出したりしないから」
俺がニヤリとすると、今度は鬼道が茹で蛸みたいになった
「おっ!俺はそんなつもりで」
「はいはい」
「は、話を聞け!」
ちょっと残念な気もするけどな
やっぱり俺は彼女の事は良く知らないままでいい
「待て佐久間!」
鬼道をからかう方が断然面白いからな