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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -


▼焦がれるほど


良く、眠っている

それはさながら眠り姫の様で、俺は起こすのを躊躇った

机の上に散乱している資料や、パソコンのディスプレイに開かれたままのデータを見れば雷門が今まで何をしていたかは容易に想像出来た

元々、無理をし過ぎる傾向にあるとは思っていたが…こんな時間まで没頭するのは身体に悪い

実際こんな所で眠ってしまっているのだから


雷門

そう呼ぼうとして、口を噤む



「…な、つみ」



小さく、小さく囁いてみると…雷門への気持ちで心が満たされていく…
じわじわと、緩やかに、そして穏やかにそれは俺を満たしていくんだ

聞こえないように再び俺は呟く

「夏未」

身じろぎ1つせず、雷門は眠る

心地良い眠りの底でお前は誰の夢を見てるんだ?

そして俺は、柔らかそうな…その頬に触れたくなる

その衝動は抑えきれない波となって、俺は流されそうになってしまう
……いや、流されたのだ


少し、だけ、だから


自分におかしな言い訳をして、俺はそっと指の先で雷門の頬に触れた

それは滑らかで、柔らかく、温かかった

全然違うんだな、男とは


本物の眠り姫なら、此処で目覚めのキスをするのだが、当然そんな事が出来る筈もない

俺はもう少し寝顔を眺めて居たかったが…仕方なく雷門の肩を少し揺らした


「雷門」


ぼんやりと目を開けた雷門が、俺の顔を見ている


「……有…」
「…?」


さっきよりも確かに、俺の顔を認識した雷門は身体を起こす

「鬼道君…」
「自分の部屋で寝た方が良い」
「……ええ」

のろのろと書類を片付け、パソコンの電源を切る

「眠いわ…」
「だろうな」

雷門の代わりに書類とパソコンを抱え、俺は歩き出す

「手を」
「ん?」
「繋いで?」
「…どうしたんだ?まだ夢の中か?」
「…そうかも知れないわね」
「いつもなら」
「こんな所でこんな事は絶対しない、って言いたいんでしょう…?」
「…まあな」
「夢を…見たわ」
「どんな」
「貴方に夏未と呼ばれて…」


俺はぎくりとした
聞こえていたのだろうか…?

「私、嬉しくて…貴方の名を呼んで…」
「………そうか」



しっかり繋がれた雷門の温もり

それは、俺の中の独占欲を掻き立てて俺を感情的にしてしまう


いつか
いつか
お前をずっと、俺だけのものに出来るといいのに


そう考えると、切なくて、苦しくてどうしようもないんだ
こんなに傍にいるのにどうしてなんだろうな



雷門の気持ちは分かっているのに…この不安は何なんだ?
だからもっと満たされる何かが欲しいと願うのは傲慢なのだろうか
そして…
こんな事を考えていると知ったら雷門は笑うだろうか

けれどそれも仕方ない
どうしようも無く焦がれているのは俺の方なんだから



「なあ」
「なあに?」
「名前で…呼んで良いか?これから…」
「どうして聞くの?」
「いや…それは…」
「ずっと待ってたのよ」
「……!」




…ああやっぱり
もうどうにもできないくらい


俺はお前が好きでたまらない





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