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▼ハロウィンの悪戯


「…………」

理事長室を訪れた鬼道のがっかりした表情を見て、夏未はちょっとばかり気の毒になった

鬼道にしてみれば、夏未がハロウィンのお菓子など当然用意していないだろうと目論み、どんな悪戯をしてやろうかときっと考えを巡らせていたに違いない

しかし夏未はその鬼道の考えの裏をかいて、昨日のうちに可愛いらしい小袋に入れたお菓子を用意したのだった

「…まさか用意しているとは」
「今日はハロウィンだもの…貴方の事だからお菓子をくれないと悪戯するぞ、とか何とか言って、難題を持ち掛けるつもりだったんでしょうけど…」

すまして言う夏未を横目に鬼道はお菓子の小袋を開けて小さなチョコを取り出した

「仕方ないな、今日はこれで我慢しておくか」

そう言いながら、包み紙を開けてそれを口に入れる

それを見た夏未は、やれやれ、と息をついて、ソファーに置いてある鞄を取ろうと鬼道に背中を見せた

「きゃ!」

突然鬼道の腕が後ろから伸びて、夏未の腰をグイと引き寄せ…夏未は後ろ向きに鬼道に抱き締められた

「ちょっと!」
「何か問題でもあるのか」

しれっとして、鬼道は夏未を抱き締める腕に力を込める
そして、夏未の耳元で不敵な声色で囁いた

「俺がこれしきの事で諦める訳無いだろう」

ふ、と耳にかかる鬼道の息と、甘い声に、夏未は思わず身をすくめた

不覚にも耳が火照って、胸がドキドキと高鳴ってしまう

「上手く逃げたつもりだろうが、な」

声を聞いただけで、どんな表情をしているのか、が、手に取る様に分かる…
きっとニヤリといつもの笑みを浮かべているに違いない

夏未を抱き締めたまま、鬼道はまたチョコの包み紙を開けて、今度は夏未の口元にそれを近付けた

「美味いぞ」

ふう、と耳元にまたかかる息

ぞくぞくと背中に何かが走る

鬼道の指先ごと、夏未はチョコを口に含み…そしてその指を舐めた

「…!」

鬼道が僅かに身動きしたのが分かって、夏未は良い気味だわ、と内心思う

こんなに私をドキドキさせた、お返しよ
少しぐらい動揺させてやらなきゃ気がすまないわ…



「本当はハロウィンなんかどうだっていいんでしょう」

返事をしない鬼道に向かって、夏未は更に続けた

「口実があれば、それで」
「はは」

鬼道が声を上げて笑い、夏未をぎゅう、と抱き締める

「口実なんて本当は何だっていい、むしろそんなもの、無くたって構わん」

鬼道は唇を夏未の耳に押し当てて、囁いた

「俺は俺の好きに、するだけだからな」

咄嗟に振り向いて、夏未は鬼道を睨む
そんな夏未をものともせずに、鬼道はゴーグルを外し、当然のように夏未の唇を奪う…

強気な言葉とは裏腹に鬼道のキスは限り無く優しく繊細だった

本当に、ずるい人


鬼道のキスを受け入れながら、そんな事を思う

「甘いな」
「当たり前でしょう」

そう夏未は呟くと、今度は自分から鬼道の首に腕を絡めた




それでも拒否出来ないほど、貴方が好きな、私の負けよね









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