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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼馬鹿なんだから


「また、手紙が入っていたのよ」

今回ばかりは、その言葉を鬼道がどれだけ待ち望んでいた事だろうか

鬼道は安堵の溜息をついたが、夏未は別の捉え方をしたらしい

「仕方ないでしょう…こればかりは…机に蓋をしておく訳にもいかないもの」
「…そうだな」
「怒っているの?だったらお門違いもいい所だわ…」
「いや、違う」
「だったら、なあに?」
「いつまで経っても、それには慣れないものだと思ってな」
「え?」

鬼道の意外な言葉に、夏未は歩みを止めて、しげしげと鬼道の顔を見詰めた

「何だ」
「貴方でもそんな風に思うの?初めてじゃない?そんな事話してくれるの…」
「当たり前だ…お前にラブレターが届く度に緊張する」
「…知らなかったわ」
「彼氏がいると分かっていて、それでも果敢に挑戦しようとする気持ちは評価するが…だからと言って寛大でいられる訳が無いだろう」
「……貴方なら『流石俺の夏未だな』とか何とか思っているのかと思ったわ」
「そんな訳あるか、良い気持ちになどなるものか…」
「…そう」

呟いた夏未の表情がどことなく嬉しそうだ

「そんな顔をするな、何だか情けない」

ふう―と息を吐いて鬼道は「どうするんだ」と夏未に尋ねた

「どうするんだ、ってそんなの分かりきった事でしょう…」

ほんのり頬を染めながら、夏未は「何を今更」と更に呟いた

「きちんと読んで、ちゃんと誠意を持ってお断りするわよ、当たり前でしょう」
「読むのか」
「今までだって読まずに捨てた事なんて無いわよ…失礼じゃない」
「………情に絆されると言うことは無いのか」
「貴方私を馬鹿にしているの?」
「……すまん」

ハア、と夏未は大きく息を吐くと鬼道を見詰めた

「どうかしたの?何だか何時もの貴方らしく無いわね」
「いや、そんな事は無い」
「そうかしら」

疑わしげに鬼道を見た後、夏未は再び歩きだし、鬼道もそれに倣って夏未の隣を歩き始めた







「すまん夏未、ちょっと待っててくれ」
「どうかしたの?」

とある日の事だった、部活が終わり、部室の前で待ち合わせていた鬼道と夏未だったが、鬼道がうっかり英語の教科書を忘れたと言い出した

「急いで取ってくるから、部室の中で待っていろ」
「此処で大丈夫よ」
「ダメだ、暗いから危ない…まだ中に風丸とか染岡がいるから」
「着替え中なんじゃないの?」
「いや、だらだら喋っているだけだ、いいな、中で待ってろ」
「はいはい」

夏未はそう言うと、部室の扉を開けて中に入って行った
それを見届けると、鬼道は急いで校舎へと走る

3階まで駆け上がり、もう少しで教室へと到着する間際、誰かが其処から出てきた
すれ違ったその男子の顔は3年生だと言う事は分かっていたが、同じクラスでは無かった


それがどうして俺のクラスから出て来たんだ…


教室のドアに到着した所で鬼道は後ろを振り返る
すると、その男子も立ち止まって鬼道を見ていたのだ
まさか鬼道が振り返るとは思って居なかったのだろう…その男子は慌てて顔を背けるとあっと言う間に廊下の角を曲がり、階段を駆け下りて行った

その足音を聞きながら首を傾げ、鬼道は自分の机へと近づいた
そして机の中に手を突っ込むと取り残されていた英語の教科書を取り出し鞄に入れる

「……に、しても…あいつは一体」

ふと見ると、夏未の椅子が随分机から離れ横に飛び出していた

「……」

夏未の椅子を元に戻そうとした鬼道はある事を思いつく


あの夏未が椅子をこんな状態にして教室を出る筈が無い


「……」

そっと机の中に手を入れると、其処には…

「ラブレターか」

白い封筒

「さっきのアイツか」

ふうと短く息を吐く
落ち着けと、自分に言い聞かせる
しかし、メラメラと嫉妬の炎が次第に大きくなる…


破り捨ててやろうか


一瞬本気で思う
フー…と大きく息を吐く

鬼道は手紙を机の中に戻し、夏未の椅子をきちんと元通りにする


俺の足音が聞こえたので、咄嗟にこの机を離れたのだな
全く俺の事を知らない訳でもあるまい…

これまで何度も夏未にはこう言った類の手紙が届いている
鬼道と付き合っていると言う事実が皆に知られるようになって少しは少なくなったが…それでも恋心は抑えられないらしい

卒業を待たずに婚約してしまおうか、とも思う


夏未を誰も手の届かない存在に出来る…今の俺なら


つまらない嫉妬で焦り、そんな手を使うなんて愚かしい
しかし俺だって彼氏として、いつまでもこの状態に寛大ではいられん…
だからと言っていちいち反応していたのでは、男として狭すぎる
だいたい、アイツの顔を見てしまったのがそもそもの原因だ
いつもなら夏未から「手紙を貰った」と報告を受けるだけだ
それだけならこんなに嫉妬せずに済んだものを…
アイツめ


「……」

「は」と鬼道は軽く笑うと独り呟いた

「所詮は俺もまだまだガキだな」





翌日、夏未より先に登校した鬼道は密かに夏未が手紙を見つけるのを観察していた
どんな表情をするのか非常に気になったからだ


これは夏未を疑っているとかそう言う事ではない
ただ手紙を貰った夏未がどんな顔をするのか見てみたいと言う興味!!ただそれだけに過ぎない!!


「おはよう」
「ああ…おはよう」

窓際に佇む鬼道に夏未が挨拶をして来る
ちょっぴりぎこちなくなってしまったが幸い夏未には気付かれずに済んだ…

席についた夏未が手紙を見つけたようだ
その横顔は困った様な表情を浮かべ、あからさまにため息をついたのが分かった

それを見ただけで、何となく…心が軽くなり、ホッとしている自分がいる…


情けない、ものだな…


「おはよう鬼道、何かあったのか?」
「ん?いや…特に何も無い」
「今日は英語の少テストがあるだろ?ちょっと不安なんだよな」

風丸が話題を振ってくれた事に、有難いと思いながら、…鬼道は夏未がその手紙を鞄にしまうのを見詰めていた





「また、手紙が入っていたのよ」

鬼道との帰り道、夏未は開口一番こう言った
正直、その事実を夏未が報告してくれないのでは無いかと鬼道は何故か不安になっていたのだ…


暫く歩いた鬼道は夏未のその手を掴んで引き止める
驚いた表情で鬼道の顔を見詰める夏未

「本当ならお前を誰も手の届かないようにしてやりたい位だ…焦ってみっともないと思われても、だ」

息を呑んだ夏未が、ほのかに顔を赤くして「馬鹿ね」と小さく言った

「そんな事しなくたって…私の心には貴方以外…誰も届かないわよ」

夏未の言葉に今度は鬼道の顔が赤くなる…

「夏未…」

鬼道への気持ちをその声に含ませて、夏未が優しく呟く…

「本当、馬鹿なんだから…」

そして鬼道の手を優しく握り直し、指を絡めた

その言葉にじんわりと満たされて、鬼道も繋いだ手に優しく力を込め…

「……そうだな…馬鹿だな」

そう、呟いた







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