×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ふえていくしあわせ


彼のそんな表情を初めて見た

中学生の頃から、大人びて冷静沈着な彼

が、今や私の目の前で呆然として棒立ちになっているその様は、とてもおかしなものだった

帰宅早々に、玄関で靴を履いたままの彼にいきなりこの話をしたのはいけなかったかしら?
でも私も早く伝えたくて、今の今まで携帯に連絡するのを我慢していたんだもの…

「すまない、もう一度…」

言ってくれないか、と呟いた声が小さくなってかすれた

「…赤ちゃんが…出来ました」

私がもう一度言うとやっぱり彼は呆然として私を見詰めた

「有人?」

ハッとした彼が靴のまま玄関に上がろうとしたものだから、慌ててそれを止める

「す、すまん…」
「もう、しっかりして!これからパパなんだから!」

その言葉に反応して、彼は顔を赤くした

「ン」

短くそう返事すると、彼はそっと…私のお腹へと触れる

「今、此処に」
「……ええ」
「俺の」
「ええ」
「家族」
「貴方に似た男の子だといいわね」
「…お前に似た女の子が良い…」

そう呟くと、彼は本当に嬉しそうに笑った

そして

「ありがとう…」

と静かに言うと私を抱き締めてくれた

「俺は、良い父親になれるだろうか」
「なれるわよ」

私の言葉に彼は自信なさそうな表情をする

「貴方がそんな顔するなんて」

そう言って私が笑うと、彼は「初めての事だし」と言い訳をした

「小さな子供に、どう接したら良いのか…分からん」
「そんな事、生まれてから考えればいいでしょ」
「それはそうだが…」

困惑したような、その表情

「俺は、本当の両親の事は、何も覚えて無いからな…」
「そんな事」

思わず笑ってしまった私を見詰める彼の表情が複雑なものに変わる
そんな彼に、私は思ったままの気持ちを言葉にする

「愛しいと言う気持ちがあれば大丈夫…あまり過保護になっても困るけど」
「…気を付けるが…お前に似た女の子だったら保証は出来ないな」
「あらあら…今からそんな話?さっきまで自信なさそうな顔をしていたのは何処の誰かしら」
「……」

彼は私の言葉に顔を赤らめている
面白いわね

「春奈にも教えてやろう…きっと、喜ぶと思うんだが」
「良いわよ」

珍しく弾んだ足取りの彼の後ろ姿を眺めながら、私はそっと自分のお腹を撫でた








目次

[短編/本棚/TOP]