53.泣き声


彼女はいつも泣いていた

嬉しくても悲しくても

私が愛しいと

『先生』

彼女の柔らかな頬を雫が滑っていく

『先生』

とても

『大好きです』

とても

『愛しています』

綺麗な涙

『だから』

彼女の暖かな涙に荒んだ私の心は少しずつ癒されていった

彼女の笑顔に満たされていった

でもある日、彼女は泣かなくなってしまった

笑顔も浮かべなくなってしまった

私はまた少しずつ

暖かなものを零して

ぽっかりと穴が空いたようだった

彼女を取り戻したかった

また、涙や笑顔を見せて欲しかった

ただ、それだけだった

会いたかった

逢いたかった

彼女は私にとってたった一人の暖かな人

冷たい私に暖かさを教えてくれた唯一

眠る彼女を起こしてしまったのは罪

『どうして』

暖かな彼女から温もりを奪ってしまった

『どうしてですか』

伝う涙を失わせてしまった

『先生』

それでも、私は

「逢いたかったんだ」

そっと温もりを失った彼女の身体を抱きしめた

もう彼女の頬伝う涙は見れなくなった

彼女は悲しそうに笑っている

けれど、変わり私の頬に伝う涙は喜びからなのか悲しみからなのかはわからない