恋愛初心者


身体が怠い。
動くのが煩わしい。

偶にあるこの症状。
元々身体が弱かったのが原因なのか、それとも疲れが原因なのかは分からない。
こういう日は、一日中ベッドの中で過ごす事にしている。
ギルドに顔を出さないし、家に誰も入れない。

まあ、大抵の奴らはこの事を知ってるから、何も言ってこない。
ナツは偶に家の中にずかずかと入ってくる時があるが、暫く無視してると諦めて帰るし。


とにかく今日は安息日だ。
せっかく良い天気なのに外に出れないのは少し残念だが。

ゆっくりと休息をとるために目を閉じようとしたが、フローリングの軋む音に邪魔された。


誰かが家の中を歩いている。
思い当たる人物を探しているうちに、足音はベッドの近くで止まった。
溜め息をつき、毛布にくるまったままの状態で身体を少し捻り後ろを向く。

また面倒な奴が来た、と思った。


「よぉ、やっぱり起きてたな」

「…何で此処にいる」

「ギルドにいねぇから心配して来た」


本当なのか冗談なのか分からない笑顔で告げてくるコイツ。

名前、何つったっけ。
そうだ、ガジル。
幽鬼からウチに入った奴。
一度ボコボコにしてやったのに懲りないのか、はたまた馬鹿なのか、俺に付きまとってくる。

物好きな奴め。


「何で俺ン家知ってんだ」

「マスターに聞いたら普通に教えてくれたぜ?」


やっぱりか。
あのクソジジイ、今度文句言ってやる。


「ジジイに聞いたなら、何で俺がギルドにいねぇのかも知ってんだろ」

「あ?知らねーよ。だから心配して来たっつってんだろ」

「…頼んでねぇ」


マジあのジジイ何考えてんだ。
俺は絶対今日は外に出ねぇぞ。


「何?お前調子悪ぃのか?」


そう言ってベッドに体重を掛け、俺の顔を覗きこんでくる。
ベッドがガジルの体重で軋んだ。


「おい乗んな降りろ、あと帰れ」

「おーおー可愛くねぇな」

「そりゃあどうも」

「褒めてねーぞ」


マジで面倒くさい。
どうにかして退かそうと、腕で押しのけようとしたが手首を掴まれて阻止された。
その手を振りほどこうと腕を引いたら、そのまま押し倒され、ガジルは俺に馬乗りになる。


「邪魔だ、重い」

「そうかよ、こっちは良い眺めだぜ」

「早く上から退け」

「嫌だね」


至極楽しそうな表情を貼り付けたガジルの顔が、少しずつ俺に近づいてくる。
目の前の奴から顔を逸らそうとしたが、空いた方の手で顎を固定されて思うように動かせない。


「っ…、おい」

「何もしねぇよ」

「…は、」

「ただもう少しだけ、顔を見せてくれ」


自分に向けられているその瞳に、俺は言葉を飲み込んだ。

赤い瞳には俺が映っていた。




数十秒、実際は数秒だったのかもしれないが、時間をおいて顔と、顔を固定していた手が同時に離れていく。
その表情はさっきまでとは打って変わって、酷く真剣そうだった。


「やっぱり俺、最近おかしいかも」

「おかしいのは元からだろ」

「そうじゃねぇ、お前と会ってからお前のことばっか考えちまうんだ。コレって何なんだろうな」


本当に理由が分からないと言うように、首を横に捻りながら俺を見据える。


「……そんなの、俺が知るわけねぇだろ」


視線を逸らして小声で呟くと、そうだよなァって乾いた笑い声が聞こえた。


「何かいっぱい考えて疲れた。俺も寝る」


そう言うとガジルは勝手に俺のベッドに潜り込んだ。
遠慮ねぇな。


「おい!ここで寝んな帰れよ!」

「ヤダ、帰んのめんどい」

「…っ、勝手にしろ!」


もう何を言っても無駄だと思い、悪態を吐いて相手に背を向ける。
寝息はすぐに背後から聞こえてきた。
他人の家でリラックスし過ぎだろ。

寝ている間につまみ出そうとも考えたが止めることにした。
そのままにしとこうと思ったのは、この図々しいヤツが好きだからとかじゃない。


ただ偶にはこんな日があっても良いかもしれない、と少しだけ思ったから。

それだけのことだ。









今日は晴天。
窓から差し込んでくる光が暖かくて心地良いなと思った。








後書き
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何か意識してないけど、「この思いは」の続きっぽくなった…
続きとかじゃないんですけどね!!

とりあえずガジルは自分の気持ちが分からなくてモヤモヤして、ラクサスのとこに夜這い(違)に行くと。


マスターがガジルにラクサスの家を教えたのは勿論わざとです←←
マスターは人の感情とか読むの上手そうだよね。

さり気なさく背中を押してくれるっていう…



ガジラクうまー(*^p^*)


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