Novel
08

「…なんで?」
「は?」

福井君にチョコを押し付けて、気がつけばがむしゃらに走り出していて。
やっと立ち止まったその場で泣き出してしまった私を抱きしめたのは他でもない福井君だった。
抱きしめられた瞬間に投げかけられたその言葉に喜びよりも疑問が浮かんでしまった。
福井君が言っているのは私の聞き間違い?幻想?それともこの目の前にいる福井君までもが幻想なのだろうか。

「いや、なんでって…その…ええ…。」
「あ、ちが、ごめん、なさ…その、信じ、られなくて…。」
「それは俺の台詞だっての…。」

そう言うと抱きしめていた腕に力がこもる。あったかい。本物だ、なんてまるで他人のごとのように思ってしまった。

「ずっと俺の一方通行の恋だと思ってた。」
「本当に?本当に福井君の好きな人は私なの?私なんかでいいの?」
「いや、ちょ、たんま。恥ずかしいから何度も言わせんな…!」

今度は抱きしめていた腕を離し照れたように顔を手で覆った。
それを見て嘘ではないと知り顔がほてるのを感じる。
すごく、嬉しくて、幸せで。

「…苗字。」
「うん。」
「俺の、彼女になってください。」
「…はい。」

溢れる涙はさっきまでとは違う、哀しい涙じゃない。嬉しい涙。
一方通行だった恋が、方向を変えた瞬間。





一方通行
(長い長い私たちの恋の物語。)


−end−



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