Novel
01

気がつけば目で追っていて、気がつけば姿を探していて、気がつけば声に意識を向けていて、気がつけば…なんて、キリがない。恋というものはとても不思議なものだと私は思う。
恋を知らなかった数年前の私の生活は彼に出逢って一変した。
特に興味もなかったオシャレを気にし出したり、暗かった性格を明るくしようと毎日笑顔を作ったり、苦手だった男の子だって克服した。
それでもやっぱり弱気な性格はなおらなかったのだけれど。それでもここまで変われたことは素直に嬉しかった。しかし残念ながら肝心の恋の方はまったくと言っていいほど進展していない。

「名前、次移動だよ?」
「あ、そっか…ごめん、今行くね。」

なんて、物思いにふけっていたら友人に急かされ慌てて次の移動教室の準備を始める。そんな時でも彼の声に意識を向けてしまう私はかなり重症らしい。今日もいつものように元気な笑い声が聞こえる。

「ごめんお待たせ。」

急いで廊下へでれば待ちわびたといった様子で友人が苦笑いを浮かべた。もう一度ごめんと謝ればいいよいいよと許してくれたのでそのままゆっくり教室の移動を始める。そんな矢先のことだった。

「苗字。」
「ふ、福井君?どうしたの…?」

憧れの彼から声がかかった。これは今どんな状況なんだろう!?何が起こったのか一瞬分からなくて声が上ずってしまった。恥ずかしい。
そう思い今にも隠れたくなった。しかし彼はそうもさせてくれず短く「ん。」と言って何かを差し出してきた。
その手に視線を移せば小さな髪留めが一つ。ぽつんとのっかっていた。見覚えのあるそれは間違いなく私の物で。

「落ちてた。」
「あ、ありがとう!!ご、ごめんね…!」

いつの間に落ちたのだろうか。慌てて準備した時かな。きっとそうだ。
私は少しだけ緊張しつつ彼から髪留めを受け取る。ああ、今すごく幸せかもしれない。いや、幸せだ。

なんて言っても私はかれこれ彼に片想いをして今年で三年目だ。現在高校三年生の冬。未だ言葉を交わすだけでも精一杯なのがもどかしい。
そんな私が今、福井君と言葉を交わしているだなんて夢のようだ。

「大事なもんなんだろ?いつもつけてるよな。気をつけろよ。」

にっと笑って見せる彼にうんと頷く。思わず顔を伏せてしまった。まずい。きっと今の私の顔は真っ赤なのだろう。

「やっべ、次の授業始まっちまう。」
「あ、貴重な休み時間なのに…その、えっと…本当にありがとう…。」

聞こえたのか聞こえてないのか。彼は最後に私の頭をポンと軽くこつき移動のために廊下を歩いて行った。

「っ…!」

更に真っ赤だった顔が火照るのが分かる。まさか、そんなことされるなんて思わなくて、焦りと驚きと嬉しさとでもうわけが分からない。
そう思った次の瞬間、チャイムが鳴り響く。
気がつけば友人の姿はそこにはなかった。


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