傘なんてものを持っていなかったオレはずぶ濡れのまま家に帰った

叔母さんは仕事で叔父さんも今日は午後当番だったらしく家には誰もいなかった

オレはシャワーを浴びてから夕飯を作り始めた

今日はハンバーグにしよう

そんなことを考えつつエプロンを掴んだ





昴『今日、タカ兄遅いな…』




隆昭、通称タカ兄

それが従兄の本名だった

そういえば、白石達にはまた心配をかけてしまったなと思った

明日、もしかしたら何か聞かれるかもしれない

しかし、きっとオレは適当に誤魔化すのだろう

友達に頼ることをしないオレは弱虫なのかもしれない

白石達には感謝していた

大阪という慣れない土地であんなに笑っていられるのは彼等のおかげだろう

それが分かっているからこそ、オレは最低だと思う




隆昭『ただいまー』

昴『おかえりー!』




ハンバーグのソースを作っていると玄関の方からタカ兄の声が聞こえた

余程疲れているのか声に元気がない




隆昭『お、何作ってるん?』

昴『ハンバーグ。』

隆昭『オレ、煮込みハンバーグがええ。』

昴『はいはい。煮込みな!』




目を輝かせながら言うタカ兄はまるで小さい子供のようだ

こんな人でもテニスをしている時はめちゃくちゃカッコいいのだからギャップ萌えとはこのことかとくだらないことが浮かんだ

そんな時、オレの携帯電話にメールが届いたらしく短い着信音が耳にはいった

携帯を開くとそこには謙也と書かれていた

一瞬戸惑ったが、内容は《腹の調子どうやー?》という至って普通のメールだったので《大分よくなった。心配かけてすまん》と返した



謙也は何もなかったかのようにメールをくれた

たったそれだけのことが嬉しくて、白石からもこないかなーなんて思ってたらメールがきて驚いたと同時に笑ってしまった

内心、みんなの態度がよそよそしくなったらどうしようと思っていたがそんな不安は吹き飛んでしまった







11.流れゆく雨の日
(ありがとう。明日からはいつものオレに戻るから、またいつものように笑顔を見せて)

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