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2016 / 06 / 08 絵の中の物語


宇宙怪獣がやってきたという冒頭から始まる物語を嬉しそうに少したどたどしく読みだした少女を横目に私は絵を書いていた。女の子の小鳥のような可愛らしい声を耳が吸い込む。少女の声がパステルカラーを思い浮かばせる。
「お姉ちゃん、宇宙怪獣はね」
「うん」
「宇宙にしかいないのかなあ」
「だって”宇宙”怪獣なんでしょう」
「じゃあ、ここに怪獣が現れたら地球怪獣なの?」
「うーん。どうなんだろう」
無邪気な質問、変な答えを出してはいけないと悩む私の絵を覗き込んで少女はにっこり笑う。
「お姉ちゃんは怪獣好き?」
「そうね」
「だって、お姉ちゃんの絵の中にいるの怪獣でしょ」
「うーん」
「お姉ちゃんの中にも怪獣がいるの?」
「どういうこと?」
「私は上手に絵を書けないけれどいつもね、この絵本を読んでいると浮かんでくるの」
「貴方の中の怪獣をお姉ちゃんにも見せて」
スケッチブックを渡すと少女は柔らかい色合いの怪獣と真っ黒の怪獣を書いた。
「黒い怪獣さんとね、この水色の怪獣さんはね、お友達だけどお喋り出来ないの。でもずっと一緒にいるの」
「どうして?」
「一緒にいないと何もわからないから。何も話さないけど一緒にいないといけないの」
「そうなんだ」
「お姉ちゃんの怪獣はひとりぼっち」
「そうね。でも、ひとりじゃないのよ」
「絵の中ではわからないけどお姉ちゃんの頭の中の怪獣の絵日記を書いているから、頭の中で怪獣はいろんな音を聞いていろんなものを見て生きているの。ひとりじゃないよ」
「うん」
少女は自分の絵を見ながら小さく頷いて「私もね、怪獣さんが楽しく生きられるようにいろんなこと考えるね」と笑って手を振って帰っていった。
風が優しく吹いてスケッチブックのページを進めようとする。私は大きく深呼吸をして書きかけの絵に筆を入れた。私が忘れないうちはずっと頭の中の怪獣たちは生きられるんだと思うと私が死んでも怪獣たちが死んでしまわないように書き続けなければいけない気がした。



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