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2014 / 10 / 28 抜け殻


「ねえ、短くて華やかな生涯と土汚れてるけど長生きできるのどっちがいい」
「土汚れて暮らすほうがいいな」

彼女は蝉の殻を机並べながら呟いた、その言葉に僕は適当に返事を返す。別に意味なんてない、そして彼女の蝉の殻を愛らしそうに撫でる様子を見ながら別の事を考えていた。
人はお互いに名を付け合うことで生きる意識を高めているのではないかとか、とにかく命あるものは自らが永久を得ることが出来ないとしても血は途絶えさせたくないんだろうとか。

「とりあえず長く生きたいって意味なの」
「別に俺は表に出て持て囃される事が快感ってわけでもないし、まあ価値観はそれぞれだろ」
「意味わからない」
「シンプルに言うと静かに生きたい、んで二択から選べと言われたから選んだ」
「そっか」
「蝉の抜け殻集めて楽しい?」
「楽しくはないけど嫌いじゃないの」

彼女は急に悲しそうな表情になり抜け殻を手に乗せて僕のほうを見て「期限があるのは魂で使い捨てなのが体みたい」と呟いた
「そんな言い方すんなよ」
「虚しい。残るものはただそこに在ることしか出来ないの」
「別にそれも悪くないだろ」「どうして」
「在ることに意味があるんだよ、見えないものに恐怖や不安を煽られるっていうみたいにさ」
「ふーん」
ぱり
さっき大事そうに撫でていた抜け殻を彼女は手で潰して苦笑する

「どうした」
「私の話ってつまらない?」
「いや、そんなことないよ」
「貴方、さっきから抜け殻ばかり見て私の目を見てくれない」
「そうかな」

気が付けば結構な時間が経っていた。

「私、帰る」
「蝉は死にたかったんだよ」
「ん」
「闇の中で夢を見ていた、後は本能が彼等を動かしていた」
「死にたい理由にならないよ」
「生きることは死へのスタートなんだ」
「貴方って酷い表現をする人ね」
「ちゃんと話聞いてたよ、抜け殻置いて帰るのかい」
「貴方にあげるわ」
「ありがとう」

空っぽなくせに今にも動き出しそうな抜け殻が怖くなって彼女が帰ったあと潰して埋めた。
彼女が彼らに名前をつけていなくてよかったと思った。つけていたらきっと僕は彼らを捨てることが出来なくなるから。



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