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2014 / 10 / 09 悲しみのサイクル


秋の静けさが公園の染まりかけた木々を際立たせる。息つく暇もないぐらい忙しかった人の波が少しだけゆるやかになったような気がする。

「そろそろ終わりにしようか」
「始めましょうって言って始めたわけでもないのに何それ」

長かった髪を彼女は最近ばっさりと切ってショートヘアーにした。別にそれが僕の気持ちを変えたきっかけではなかった。百合子はキツネ目ですっきりとした綺麗な女性だった。

「もう会いたくないんだ」
「それが終わりの言葉なの?」

いつもよりきりりっとした目は鋭く僕を見た。彼女は一度も愛の言葉をいうことはなかったけれどなんとなく好いてくれるのは知っていた。というか、一銭越えたあとも何度か会ってるということは好意があるということを示すに違いない。

「結婚するんだ」
「あー、もう付き合って4年になるえりちゃんと?」
「まあ」

百合子と出会って7年になる。出会った頃はお互いのことを煩わしい相手だと思っていた。考え方が違うし話し出すと意見がぶつかるばかりで口論ばかりだった。だから仕事以外の付き合いまで持ちたいと思っていなかった。苦手な人という印象しかなかった。
その印象が崩れたのは彼女と出会って2年ぐらいたってからだ。私と百合子が所属していた部署での仕事が上に認められ反省会という名の飲み会が開かれた時だった。普段、お酒を飲まずに席を外す百合子がその日はお酒を飲んだ。いつもは誰といても気を張っている彼女が一気に崩れた。
同僚が「百合子さん、違う部署の上司と付き合ってて、その人が妻子持ちだったんですよ」と耳打ちしてくれた。抜け目のない人だと思っていたけど割と弱いところあるんだなと思った。

お開きになる頃には百合子は酔っ払ってふらふらになっていた。僕が帰る支度を始めた頃、部署の一人が「そういえば、百合子さんって◎××マンションに住んでるんですよね」といって僕を横目に見た。百合子が住むマンションは私の住むマンションの近くにあった。
「送ってやってくださいよ」
断ろうとしたが言える雰囲気ではなかったので百合子を家に送ることになった。ただ送るだけのはずたったのに家のベットに彼女を寝かせると酔った彼女が僕を抱き寄せた。そして耳元で「帰らないで」と囁いた。

いけないと考えながらも結局、理性を保てなかった。そこから関係は始まった。恋人というよりお互いの欲求、虚しさ、そんなものを解放させる為の相手だった。もしかしたらそれでも恋人という表現に当てはめてもよかったかもしれないけれどお互い言わなかった。

時が経ち、僕と彼女は違う部署になりお互い恋人もできた。
そして、時がきた。

「私のほうが長く一緒にいたのにな」
「今更か」
「だからこれからもって思ってた。別に貴方を独占したいわけじゃない」
「区切りをつけたほうがいいだろ。百合子だって」
「こういう時だけ名前で呼ぶよね。別に貴方を恨んでるわけじゃないの」
「君は良い女だよ」
「そうじゃないと続かないでしょ、そうやって話題をそらそうとするのやめてよ。ねえ今日までいいでしょ」
「いや、だめだよ」
「・・・同じ部署の高橋さんと付き合ってるのは嘘だよ。ずっと私には誰もいなかった」

涙が溜まった瞳がきらきらしていた。抱き寄せてほしそうな彼女を見ながら僕は最低だけれど絵莉のことを考えていた。切ってばかりの髪の毛がさらさらとなびく。今までで一番似合っていた。きっと最後まで百合子の心の穴は埋まらなかったのかもしれない。僕が彼女に踏み入ったことで余計に穴が広がった。僕は彼女の悲しみのサイクルのひとつになった。

秋が終わる頃、僕は結婚して仕事を変えた。
仕事を辞める僕のために飲み会を開いてくれたがそこに百合子は来なかった。






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