長い髪を結うと彼女は振り向いた。
透き通るような白い肌が水色のワンピースを際立たせる。

「私ね、死にたいの」

彼女はそういうと微笑んだ。
黒い瞳が揺れた気がした。

「死ぬなんて勿体無いよ」

僕は馬鹿だと思う
けれど阿呆ではない気がする。
優しいだけが取り柄でその優しさの使い方が下手らしい。

「勿体ないなんて貴方の主観的な考えと勝手な常識というか倫理というかそういうものを合わせた答えでしょう」

淡々とした彼女の声が心臓に響く。
静かな部屋では彼女の小さな声もちゃんと捉えることが出来る。

「あ、いや。まあそうなるかもしれないけど・・・」
「ふふふ」

しどろもどろになる僕を見て彼女は笑った。
恥ずかしくなって言葉を見つけられず少しの間心地のいい沈黙が流れた。
僕らの間で流れる時間はいつもゆるやかな気がした。

「・・・」
「ねえ、人ってやっぱり水だけでは生きられないのかな」
「どうして?」
「最近ね、眩暈がするの」

彼女の細い、今にも折れそうな手が僕の頬をなでる。

「もしかして・・・」
「もう、そんな難しい顔しないでよ。今どきどきしてる?」
「ああ。それはもう」
「私、死んじゃうかなあ」

瞳はとても潤んでいてでもその奥には何かが強く灯っていた
彼女は僕に何かを求めているんだと思った
あまり勘が鋭いほうではないけれど彼女の変化なら気づける。
彼女が水だけで生きようとしていたことには気づけなかったけれど

「一緒に暮らそう」
「急にどうしたの」
「俺がおいしいもの作ってやるよ」
「いいよ。私は・・・」

抱き寄せた。
彼女は少しの間、状況を掴めないのか静止していた。


「お前って俺よりも馬鹿だよな、まあだからこそ一緒にいて心地いいのかも」
「・・・・」

「お腹すいてるだろう」


腹の虫が鳴いた
彼女は恥ずかしそうに頷くと
「貴方が傍に居れば、私は死なないかもしれない」と小さく言った。


「よっしゃ、ご飯作るか」





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