「嫌になったらいつでも言ってね」 「(言えるはずないだろ)うん、わかった。というか、お前神経質すぎ」 そんな些細な嘘というかなんというかそういうものが積もっていく毎日の中で生活しているともう何もかもが適当になっていく自分がいる。 いや勿論、相手への気持ちというかそういうのは多少適当でも嘘ではないんだけどね。 「だって私のせいで傷ついてたら嫌だ」 「傷つかない人生なんてないんだし、それに多少傷ついて死ぬもんじゃない。逆にお前のほうが危ないだろ、神経すり減らしすぎて朝起きたら天に召されちゃってるってことがあったらたまったもんじゃない」 「考えすぎだよ、あはは」 お前に言われたくないと言おうとしたが飲み込んだ、絶対この言葉を言うとあいつは突っかかってきて話が終わらない。結局同じ話にいきつきそれが続く永遠のループ。昔はそれもそれでいいかと思えたが今はもう後が目に見えすぎて疲れてしまう。時々そんな自分に気づくたび愛を吸い取る虫が自分に寄生して時間をかけて彼女への愛情を僕から吸い取ってるのではないかとさえ思えてしまう。もしかしたからこう思うようになった頃から君への思いは...、といつもここまで考えると動悸がする息が苦しくなる。 「ねえ、どうしたの。辛いの」 「いや。辛いって程じゃない、よくあることだよ」 誤魔化すようにわざとらしく僕が笑うと彼女は僕の手を掴んで僕を睨む。 「触るな」彼女が掴んで睨んだのと同時に振り払い言葉が飛んだ、彼女はひるんだように手を離し一歩引くと目を潤ませた、でも何も言わなかった。 「嘘つき」 「お前さ何考えてんだよ」 「それ私が言いたいこと」 言葉が何かの音楽のように流れるように交互に零れる。 そのリズムの良さに僕が感心しそうになったとき彼女が耳を疑うような言葉を吐く 「私好きな人が出来たの」 「ふーん」 「知ってたの」 「まあ」 馬鹿らしい言葉がリズムよく奏でられる。どんな言葉もリズムよく零れるとこうにも素敵に聞こえてしまうのか。改めて頭で整理しようとすると交わした言葉の中に酷い言葉も混ざっていることに気づく。しかし僕はこのリズムがどうしようもなく心地よく感じられていつの間にかそのリズムに乗っていた。 言葉の意味を考えるよりもこの流れに乗ることが僕には重要なことだった。 もう一生このリズムに出会いのることが出来ない気がしたから。 彼女の目からは大粒の涙が零れていて、僕は君を抱きしめてまるでドラマのワンシーンのようにごめんもありがとうもなくただ「さよなら」を君に言っていた。 「いやよ、全部嘘だから。ごめんね」 君の言葉が一瞬で今までのリズムを崩そうとする。君の嘘は知っていてそう知らないとしても終わりが変わることはなかったんだ。僕はただ頷いてリズムを壊さないように「知ってたよ、これでおあいこ」君を離して改めて「さよなら」を言う。 そしてさっきまでのリズムと言葉が一気に消えていく。その頃には君はもういなかった。 |