「人と話すときにへんてこな仮面をつけるなんて君も可笑しい人だな」
私が睨みつけると彼は驚きもせず爽やかに笑って受け流した。
「化粧が下手だと言いたいんですか?」
「いいや、君は猫かぶりが下手だと言いたかったんだよ」
「は?」
「大人の女になろうと背伸びしてる姿が見え見えでキュートだね。行き過ぎた猫かぶりは滑稽だよ」
「何が言いたいんですか」
「もっと肩の力を抜いたほうがいい」

彼と出会ったのは友人の誕生日パーティーだった。
爽やかでユーモア溢れる彼の周りには性別問わず人が集まっていた。普段はおちゃらけな私もパーティーではおとなしく落ち着いた女性を演じようと思っていた矢先に彼が見透かすように言ったのだ。印象に残らないはずなかった。彼に話しかけられたあとすぐに近くにいた女の子に「彼、城山っていうの。あんな風に誰にでも分け隔てなく声をかけるからモテるのよね。聞くところによると彼にちょっかい出すと取り巻きの女の子が怖いらしいんだ」
聞いてもいないのに得意げに話す彼女を横目に私は彼の顔を思い出していた。そこまで大きくないけれど黒目がちで力強い目にすらりと長い手足、ほどよく焼けた肌。

少しめまいがした。酔いが回ってきたのだろうか。
何杯か水を飲んで会場から出た。
外の風はとても冷たかった。会場の中の明るさと人がひしめき合うことで生まれる熱が嘘のように闇に消えた。

「へんてこちゃん」
この声はと顔を上げると城山がいた。
「最初から最後まで失礼な人で終わりたいんですか」
「いや、そういうわけじゃないさ。こんな寒いのにどうして一人でいるんだい」
「逆に質問しますが貴方が居ないとパーティーが台無しになりますよ。自覚してるでしょう」
「それはね・・・。まあまあ」
「またからかいにきたんですか」
「違うよ。君は忘れてしまったかな」
「初対面・・・でしょう」
「いいや、昔僕は君に同じことを言われたんだよ。いつもおとなしい僕に本当はそんなんじゃないくせに学校にいるときだけ気取るなってね」
優しい眼差し、私は記憶を辿っていた。
いつの話だろう。小学生の頃だろうか。

「あの頃は、高橋だったよ。両親が離婚してね、母親に引き取られたんだ」
「・・・・。ダンスの・・・」
「そうだよ。ダンスの時だけは素でいられた。誰にも見られたくなかったはずなのに君にダンスをしているところ見られた時、ホッとしたんだ」
「うん」
「僕の殻を破るきっかけをくれたのは君なんだよ。等身大でいいと思うんだ」

私の肩に優しく触れると彼は微笑んだ。
「それと、君はまだキュートな女の子って感じだからそんなセクシーなドレスは早いと思うよ」
「さっきまでの会話が台無しじゃないのばか」
「うん、その反応。変に気取ってるより素敵だよ」






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