あの美しい羽根で空を飛べたらと思っていたんだ。
私はあの美しい蝶よりも強いはずなのにどうして欲しいものが得られないのかと疑問に感じていた。でもどこかでそれは得られない夢でしかないと割り切ってもいた。


雨が続いた。
あの美しい蝶達の舞を見ることが出来ないことと空腹に耐えられず衰弱していった。命を繋ぐために雨水を飲んで暮らした。
揺れる景色の中で自分が蝶になる夢を見るようになった。今の枯草のような体の色と比べられないほど美しい青い羽根。日差しを浴びると発色してより一層美しくなる。

見下ろす草原は思った以上に広く、鮮やかだった。ただの粘々ぐちゃぐちゃしているように見えた蜘蛛の巣も日に当たるとその細い糸が揺れて少し光っていた。私のような強いかまきりにはどうしてこんな美しい世界が見えないのだろうと何かがどっと沸いた。すると景色はがらりと変わり、目の前にはカマキリが居た。

目をきょろきょろさせて恐ろしかった。自分を見ているだけのはずなのに身震いした。大きくぎらぎらとした目にとらえられた。大きな前足の鎌ががっしりと羽根を掴む。

かまきりは何も言わずに貪り食う。痛みは感じなかった。羽根がひらひらと落ちていく。自分は解体されているんだと急に冷静になる。

ふと言葉が零れる。

「貴方は蝶になりたいと思ったことがある?」

かまきりは前足で頬張りながら沈黙した。
言葉を続けようとすると静かに言う。
「美しいものが短命というのは間違っていないね」
表情を変えずにその大きな目をぎらぎらさせて呟く。
「私を美しいと思うの?」
「そうだなあ。甘いし飛べるし私よりは綺麗だと思うよ」
「幸せ?」
「かまきりでよかったと思うよ。美しさを競うなんてくだらないからね」
さっきまで鋭かった目がとろんとしてかまきりはへらへらと笑った。
「私は」
・・・かまきりだったことがあるよ。と言いかけて止めた。
「自分が蝶に生まれたらきっと美しさにこだわったと思うし。だから変な意識を持たずに過ごせる今が幸せだよ」
「・・・そうですか」
「話の途中でごめんね。そろそろ食事を終えたいんだ。食べていることを忘れそうになったよ」

ぷつりと目の前が暗くなったと思ったら目覚めていた。
もしかしたらと思ってきょろきょろしていたら相変わらずかまきりだった。雨が上がったみたいで不思議と体が軽かった。


見上げると今朝咲いただろう花たちの周りを蝶が舞う。
すると一匹の蝶が飛んできた。
反射的にその体をギュッと掴まえる。
どぎまぎして捕まえた蝶を放そうとした。

すると蝶は

「あなたは蝶になりたいと思ったことがある?」


クスリと笑ってそういった。



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